表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイムスリップは魔法の世界で。  作者: 世野口秀
第3章 兆しのはじまり。
26/37

第23話 また来やがった

「……オイオイ。聞いた? 王子様ですってよ? 玉の輿ですよ。腰のタマですよ」


 騎士の言葉を聞き、杉原はおどけた調子でそう言った。

 しかし、その目は笑っていない。

 レンコン型の回転式弾倉にきちんと弾丸が補充されていることを確認し、男達と少年達が戦っている様子を観察していた。


「……こげな(こんな)状況で、ようふざけられるね」

「僕にはそれくらいしか取り柄がなくてね」

「言ってる場合じゃないでしょ? どうするの? これから?」

「……少年とあのお姉さんも中々に強そうだが、あの男達も強い。このままだと、あの少年とお姉さんが殺されるな」


 話を聞く限り、男達が自分の使えていた王子を裏切り、襲い掛かったようだ。

 何故そのようなことになったかは分からないが、予断を許さない状況であるらしい。

 この場合、杉原達が選ぶべき選択肢は二つ。

 首を突っ込むのか、回れ右して戻るのかだ。

 あの男達とまともに遣り合えば、自分達が勝てるだろうが怪我を負うかもしれない。

 下手をすれば首を突っ込んだ所為で、その首を切り落とされることもあるだろう。

 こんなところで死ぬ気など、杉原達には毛頭ない。

 助ける義理もない相手のために、危険は犯せない。


「……お前らは元の来た道ば戻れ。オイはあの2人を助けに行く」


 しかし、青華はそうは思わなかったらしい。

 まっすぐに男達を見ながら、青華は強い口調で言い放った。

 その拳は硬く握り締められていた。


「……洲岡、お前は変わらねえんだな」

「ああ、変わらんバイ。オイは見知らぬ子どもば助けようとして、足が動かんくなった。あん時は後悔した。子どもも助けられんで、自分も大怪我して。後悔してもしきれんかった。――それでも、そげなんは、今困ってる奴を見捨てる理由にはならんと。今度は、今度こそは、あいつらをきちんと助けきるだけくさ」

「……そうか、それじゃあ仕方ねえ。僕も行く」

「何ば言いよる? お前は他に守るもんがあるやろ?」

「それって私とひとみのことかしら? 私達がただのお荷物だとでも言いたいの? 馬鹿にしないで。杉原、私も参戦するわよ」

「私も何かするんだよー!! お兄さんも行くならお手伝いするんだよー」


 その言葉に、杉原は軽く微笑み、腹をくくった。

 細かいリスク計算などしていられない。

 ここにいる連中は、根本的にはお人好しなのだ。

 初対面の魔人のために体を張る男、仲間を守るために自分が犠牲になることも厭わないような2人の少女、見知らぬ子どものために命を張る男。

 そんな連中が、目の前の人間を見捨てるわけがないのだ。


「オッケー。僕が魔崩弾で六人分の装甲を剥ぎ取る。と言っても、全身は剥ぎ取れないからな。胴体部分を撃つから、洲岡が叩け。弥蜘蛛ちゃんは網を張ってあいつらの行動を阻害。ひとみちゃんは僕の隣で全体の監視。あいつらが武器か何かを隠しているかもしれないからな」

「おう、分かったバイ」

「ええ」

「はーい」

「よし、じゃあ3秒カウントしたら、洲岡、行け。――3、2,1、0ッ!!」


 杉原のカウントと同時に、洲岡が飛び出した。

 背を向けていた男達は気付かなかったが、向き合う位置にいた少年と女性は気付いたらしく、驚愕に目を丸くした。

 それに釣られ、男達が振り向こうとしたところで、杉原が引き金を引いた。

 左手の白銀の拳銃、エンジェルが火を噴いた。

 ――ドン!! ドン!! ドン!! ドン!! ドン!! ドン!!

 連続した銃声が響いた。

 6発全弾を片手で撃とうとも、普通の銃とは異なり弾丸でなく魔法を撃つため反動は小さく、また魔法であるためある程度は手でなく魔法操作能力で弾丸の方向を操作できる。

 杉原は本来、一般人である。

 しかし、それは最早過去形であろう。

 期間は短くとも、冬木柊という師に魔法使いとして育てられた彼は、的確に男達を撃ち抜いた。

 ガラスの割れるような音がし、男達の胴体部分の装甲が剥ぎ取られた。


「な、なんだ!? 誰だお前らッ!?」


 男の一人が狼狽してそう叫んだが、そんなことに答える義理はない。

 洲岡がダッシュし、一気に男達と距離を詰めた。

 そのまま鋭く踏み込み、1人目の男に左フック、2人目には右アッパー、3人目は左ジャブからの右ストレートのワン・ツーで的確に仕留めていく。

 鍛え抜かれた洲岡の身体能力と技術、更にその上から纏われた装甲は男達の鎧を砕き、肋骨をへし折る。

 男達は悶絶し、倒れ臥していく。

 しかし、簡単にいったのはそこまでだ。

 流石に男達も態勢を整え、洲岡を待ち受ける。

 杉原の弾丸を受けていない男達3人は少年と女性に向き直ったまま、他の三人は洲岡と対峙した。


「貴様らが何者かは知らんが、我らが崇高なる目的の邪魔はさせん!! やれ!! お前ら!!」


 リーダーと思しき男が、少年と対峙したまま部下にそう言い放つ。

 しかし、杉原達もこのままでは終わらない。

 有栖が糸を編み、洲岡に当たらないように投網の要領で洲岡と対峙していた3人の男達を捕らえた。


「ぐッ!? 何だこれは!?」

「斬れないぞ!? 糸が粘りつく!!」

「チクショウ!! なんだってんだ!!」

「なんでんよかろうが。シィッ!!」


 鋭く息を吐き、洲岡は身動きの取れなくなった男達を打ちのめしていく。

 男達はそのまま気を失い、倒れた。

 あっという間に6人が打ち倒されたが、それは奇襲が成功したからだ。

 決して彼らは弱くない。

 その証拠にリーダー格の男が杉原達の方向に向き直り、言った。


「お前らは、誰だ? 勇者1人に、……魔人が2人、奴隷の男1人……? ワケのわからん組み合わせだな。目的は何だ?」

「いやあ、別に。僕らはただのすれ違っただけの一般人だよ。ただまあ、女子ども相手に9人がかりはないんじゃないの? 今頃実家の母ちゃんが泣いてるぞ」

「……フン。なるほど。ただの馬鹿か。いや、その四木々流の戦闘装束、お前まさか噂になっていた冬木柊の弟子か?」

「アレ? 噂になっていたのか、モテる男というのは辛いもんだな」

「安心しろ。魔人なんぞのために奴隷に堕ちた馬鹿だと言われているだけだ」

「おやおや。そりゃあ凹むな。ま、お前のようなアホ面引っさげた馬鹿よりは、顔が良い分俺のほうがマシだな」

「……言ってろ。ガキめ」


 軽口を叩きあいながら、杉原は男の隙を探る。

 しかし……。


(まるで隙がない。この男、強いな)


 杉原は男を注視し、視数値(シーイング)を発動した。

 

村山 一樹 種族 人間族 37歳 男性

Lv 81 職業 騎士


 そのレベルは81、納得の強さである。

 杉原達の中では最もレベルの高い青華でもレベルは68である。

 しかも彼は勇者ではないため、レベルを上げるには地道に実践を積むしかない。

 恐らく実力は勇者にも引けを取らないであろう。

 否、寧ろレベルに大差がなければ大抵の勇者には勝てる。

 地力が違うのだ。

 勇者は言ってしまえば大抵がゲーマーだ。

 知識はあっても、高い身体能力を持っていても、強力な魔法が使えても、自分自身の肉体を操るような能力は鍛えていない。

 どんなに機体が凄かろうと、パイロットが役に立たなければ、意味がないのだ。


「なるほど、これは確かに強いな」

「簡単には、倒せんバイ」

「また厄介なのが残ってるわね。最初にこいつをやればよかったんじゃない?」

「それでこいつを仕留められなかったら、9人とまともにやりあわなくちゃいけないんだぜ? やってらんねえよ、そんなの」

「参ったんだねー。どうしようかー」


 4人で村山に向き合い、杉原達は構えた。

 そうやすやすと倒せる相手ではない。

 杉原は空になった薬きょうをエンジェルから捨て、袖口からスピードローダーを掌に取り落とし、弾丸を再装填する。

 青華もステップを踏み、リズムを作り、備える。

 有栖も爪の先から糸を出現させ、糸を弄ぶようにして、魔法の発動の準備をする。

 ひとみさえも、地面に指で魔法陣を描き、構えた。


「……ただの雑魚ではなさそうだな。しかし、その程度でこの俺はやれんぞ?」

「――オイ!! そこの勇者一行!!」


 村山が左手の盾を前にし、右手の剣を上段に構えたところで後ろにいた少年――ヒガシミヤコ王国第3王子、東竜堂元親が叫んだ。

 その言葉に青華が村山から目を離さずに応えた。


「何か!? えーと、王子様?」

「その男は王族護衛騎士団の第5班の班長だぜ。家柄や血統を無視して選ばれた本物の武人だ!! お前らじゃ敵わないぜ!! さっさと引き返すんだぜ!! あとその呼び方は辞めろ!!」

「そげん言われてもなあ。騎士さん、お前はオイ達を見逃してくるっとか(くれるのか)?」

「無理だな、我らの裏切りを知ったものにはすべて消えてもらわねばな」

「あなたは……ッ!! 村山さん、あなたは何故このようなことを!! 他の王子に鞍替えしたのですか!?」

「いいや、私は元から元親様が王には向いているとは思っていなかったのでね。王になるには、少々狡猾さが足りませんからな」


 少年と共に戦っていた女騎士の言葉に、村山は笑って応えた。

 女騎士は歯軋りしつつ、村山に切りかかろうとするが、相対する騎士に阻まれる。

 しかし、その騎士は女騎士には一枚劣るのか、切り結ぶうちに徐々に押される。

 その様子を見て、元親は自分もまた目の前の騎士に切りかかり、叫んだ。


「お前ら!! 俺達がこいつらを倒したら加勢するぜ!! それまで持ちこたえろ!!」

「そうか、ならば私はその前にコイツら4人を切り捨て――」


 村山がそう言いかけたところで、銃声が響き杉原の火炎弾が襲い掛かり、村山はその攻撃を盾で受けとめた。

 爆発は盾に遮られたが、今度はその盾を奪い取るべく有栖が糸を投げつける。

 だがそれもまた、


一社(ひとやしろ)流剣術、風刃(ふうじん)


という言葉と共に振り下ろされた、村山の風を纏った剣に弾かれ、届かない。

 これは剣術の一大流派である一社流の剣技であり、その名の通り刃に風を纏う技だ。

 糸を単に剣で切りつけても絡まる可能性があると考え、風で打ち払ったのである。

その隙に青華が一気に距離を詰め、村山に殴りかかる。

しかし村山はその攻撃を盾で受け止めるのでなく、受け流した。その結果、体の流れた青華は無防備に体を晒した。


「死ね!! 若造!!」

「――フン!!」


 村山は剣を振り下ろそうとしたが、青華は逆に体を丸め思い切り村山にショルダータックルをかました。

 村山は盾でその攻撃を受け止めたが、その所為で盾が邪魔になり剣を振り下ろせない。

 舌打ちしながらも剣を逆手に持ち変える事で、上から青華に剣を突き刺そうとした。

 だがその隙を突き、ひとみの放った初級魔法と杉原の魔崩弾と様々な属性弾が襲い掛かった。

 村山は青華を弾き飛ばし、後方に跳躍し、盾でその身を守る。

 魔法と魔崩弾が入り混じり、村山の盾の装甲を剥ぎ取りつつ攻撃するが、村山の盾はそれそのものが魔法にも物理攻撃にも強いドラゴンの鱗で作られたものだ。

 その程度では(ひび)も入らない。


「――悪くない攻撃だ。だが、甘いな」


 ニヤリと村山は笑う。

 再度盾を構え、剣を上段に構える。

 そのまま、高らかに宣言した。


「次は俺の番だ!!」


 そして猛然と駆け出し、杉原達に襲いかかろうとした。

 実力差は明確であり、杉原達は自分達の見切りが甘かったことを痛感した。

 この人数差でも奇襲で数を減らせば勝てるかと思っていたが、それは違う。

 最大の障害は、このたった一人の男だったのだ。

 そのことに気付いた杉原は冷や汗を浮かべたが、その直後、ハッとした表情を浮かべると、薄く唇を歪めて笑った。

 その得体の知れない笑顔を警戒し、村山は足を止めた。


「何だ? 何が可笑しい?」

「……聞こえないか? この羽音が?」

「……羽音だと? ――そんなッ!? まさか!?」


 村山にも、そして他の全員にもその音は聞こえた。

 ――ぶうぅん、という虫の羽音のような音が。

 それはその場にいた全員を凍りつかせるのに十分な脅威だった。

 杉原は笑ってはいるが、冷や汗は止まっていない。

 寧ろ増している。

 それはそうだろう、この中で最もその脅威を知っているのは彼であろうから。


「ハッハ、また来やがった。――禁断症状蝿だ」


新作を『百鬼夜行録』と言う題でアップしました。

よろしくお願いします。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ