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タイムスリップは魔法の世界で。  作者: 世野口秀
第3章 兆しのはじまり。
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第22話 何かを僕に隠そうとしている

「……腹、減ったなあ」


 狭い有栖の作った巣の中で、杉原がポツリと落とすように呟いた。

 杉原の毒騒ぎから一晩――といっても迷宮(ダンジョン)は地下であるため陽が差さず、体感で計っているのだが、一度睡眠をとったので恐らく朝方くらいではあるだろう――経ち、杉原達は現状の問題、つまり食料問題について話し合っていた。

 杉原の言葉に有栖が髪をいじりながら応えた。


「仕方ないでしょ。食べるものないんだし」


 その言葉は正しい。

 迷宮(ダンジョン)には、食べられるものは少ない。

 単なる森や山であれば、山菜や木の実、獣の肉や魚と食べられるものも多い。しかし、ダンジョンの擬似生物は、ダンジョンでのみ生まれ、ダンジョンでしか生きられない生物である。倒しても死体は残らず、霧散してしまう。

 ただ、場合によっては体の一部やアイテムを置いていくこともある。

 また例え何か残ったとしても、出てくる敵もこれまで現れたようなスケルトンや禁断症状蝿、もしくはスライムやゴーレムといった食材にはならないようなものが多い。

 ダンジョンで得られる食べ物は、解毒草のように希少なダンジョン内でも芽吹く植物、ダンジョンの外から来た獣や魔物程度しかいないのだ。

 故にダンジョン探索には本来、食料は最も重要と言っても過言ではないものなのである。


「しかし、困ったな。師匠にマジックバッグ預かればよかったな」

「あのタイミングじゃ無理でしょ。むしろ回復薬(ポーション)あっただけいいほうよ」

「もう、そこはしょうがないんだよー」

「ぼりぼりぼり……ごくん。おう、今あるもんで何とかせんば(しないと)」

「まあそうなんだけどさ。……は? ごくん、って何?」


 そして杉原、有栖、ひとみは三人揃って、青華のほうを向いた。

 視線を一身に受けた青華は不思議そうな顔をした。

 そして、首を捻りながら言った。


「どげん(どう)した?」


 そして、ぼりぼりと乾パンを噛み砕いて飲み込んだ。


「「「何食ってんだコラアアアアアア!!」」」


 杉原達は口を揃えて叫んだ。

 青華は特に気にすることなく乾パンを食べ続けている。


「あ? 乾パンっち知らんと? これは何かめっちゃ硬くて口の中の水分ばがんがん持っていく食い物で――」

「乾パンは知ってるんだよ!! どっから出したんだよテメエ!!」

「マジックバッグは値が張るけん持っちょらんけど、それより小さなマジックポーチは持っちょると。ほれ、腰にポーチがあろうもん」

「あ、ホントだ。て、だったら私達にも何か頂戴よ!! 食料問題について私達が頭抱えてたのに!!」

「えー、だって。『くれ』っち言わんかったやん」

「まさか食料持ってるなんて思わなかったんだよー!!」

「冗談ち。ただの突っ込み待ちたい。いつになったら突っ込みば受けるかと思っちょったけど、反応遅かったね」

「普通にくれよ!!」


 こうして一問着あったが、無事食糧問題は解決したのだった。

 だがしかし、問題は何も食事だけではない。

 このダンジョンの中においては、生活設備などまるで整っていない。

 急いでダンジョンを出るべきである。

 しかし、道が分からない。周囲の魔力をたよりにアバウトに道を進んできたが、このまま進んでも効率が悪い。

 想像以上に敵の出現が激しいのである。勿論杉原の治療にかなりの時間をとられたこともあったが。

 結果として、昨日一日かけても大した距離を進むことも出来なかった。

 流石にこの状況はよろしくないと判断した杉原達は、乾パンを齧りながらこれからのことについてもう一度話し合い始めた。


「出口は目指すにしろさ、もうちょっと敵との遭遇(エンカウント)抑えられないかな。僕ちゃんしんどいぜ」

「ばってん(だけど)、レベル上げには効率が良かろうもん。擬似生物はドロップ率が低い代わりに、倒した際に得られる生命力が(ばり)大きいとよ。オイはそもそものレベルが高かった分成長しにくかばってん、そっちはかなりレベル上がっとろうもん」

「お、そーなん。確認すっか」


 よくよく考えると、自分のレベルをきちんと見ていなかった杉原は自分に対し、視数値(シーイング)を発動した。

 同じように有栖、ひとみも確認した。

 それぞれのレベルは、杉原が23に、有栖が29、ひとみが17になっていた。

 これまでにもギルドのクエストの中で少しずつ、レベルは上がっていたが、ダンジョンに入ってからやはり成長の度合いが大きいようだ。

 特に元のレベルが低いものの、積極的に敵を倒していた杉原はもうひとみのレベルを追い抜いていた。


「ほう、こりゃすげえ。便利だなあ。ダンジョン……ん?」

「どげんした? 杉原?」

「……さっき言ってた、ドロップ率ってなんだ?」

「ああ、そいか」


 そうして、青華は新しい乾パンを口に放り込んで、こともなげに言った。




「魔物ば倒したら、一部の肉体やアイテムだけ残して肉体消えるやろ? そんときどんなのが何パーセントで残るかとか、そう言う話やね」

「「「――!?」」」


 その言葉に、杉原達3人は凍りついた。

 それは……、ひとみから聞いていた一族が皆殺しにされていた特の状況と重なる。

 ひとみの仲間達は、殺されると灰になって消えたという。まるでダンジョンの擬似生物のように。

 そして時折、水晶に包まれた眼球を残していくという話であった。

 どうもそれがドロップ率というものらしい。

 しかし――。


「僕は……、勇者が魔族を倒したときに、倒した相手が灰に変わるというのはなにかそう言う魔法かと思っていたんだが……。勝手にそうなるのか? ……このダンジョンの擬似生物、生物を模っただけの存在のように灰となって消えるのか?」

「ああ、そうやね。……お前は寧ろ、敵を倒してもそうならんとか?」

「ああ、普通に生物を殺せば、普通に死体は残る。獣を殺して肉でも食いたいなら自力で捌く必要があるよ」


杉原はそう答えながら、口元を押さえて思考する。

 有栖とひとみもまた、俯いてしまった。

 自分の発言がきっかけで、暗くなってしまったことに気付いた青華は帽子を脱ぎ、頭を掻きながら口を開いた。


「……あー、何か不味かったと?」

「……いや、そう言うんじゃねえけどさ」


 一旦杉原はそこで言葉を切り、ひとみのほうをちらりと見た。

 ひとみはコクリと頷き、それを見た杉原はもう一度口を開いた。


「……ひとみちゃんの一族はさ、勇者に皆殺しにされたんだ」

「――ッ!! ああ、そげんか。そいは……弥蜘蛛さんとこもか?」

「ええ、そうよ」

「……そげんか」


 青華もひとみ達の状況はある程度察していたが、まさか皆殺しとまでは思っていなかった。

 自分の認識の甘さを青華は痛感した。

 しかし落ち込んでいられる状況ではない。青華は意識をすばやく切り替えた。


「ああ、そして殺されたひとみちゃん達の家族は灰になって消えた。体の一部を残してな。僕はそれを勇者達が魔法で魔人たちの遺体を燃やし、自分の必要なトコだけ残してたのかと思ってたんだが……、勇者の持つ能力の一つと捉えるべきか」

「ああ、そうやね。他のゲームでも敵を倒したらアイテムとか素材とか取れたやろ? あげな(あんな)感じで倒すと素材やアイテムが残ると。過去から来た連中はみんなそうかと思っとったけど、……そうでもないっちゃね」

「……そっか。勇者に殺されると、ああなるんだね。てっきり私も遺体を魔法で燃やしてると思ってたんだよー。殺すだけで、……あんなに跡形もないことになるんだねー」

「そうね……。勇者の奴らに殺されたら、亡骸を弔うことも出来ないのね。本当に、擬似生物と同じように。……まるでみんなの生きてきた時間まで灰になるような気がするわ」

「……なんでだ?」


 有栖とひとみが過去を思い出し、沈痛な面持ちを浮かべている中で杉原が小さく呟いた。その言葉に、他の3人が杉原を見つめた。視線に気付き、杉原は説明した。


「えーと。……僕が『なんでだ?』って言ったのは師匠についてだ」

「え? 何で冬木さんなのよ?」

「だってさ、あの人。僕に勇者のことほとんど教えてくんないんだよ?」

「……そう言えばそうなんだよー」


 杉原に対して、冬木は必要なこと、杉原が訊いたことについてはきちんと教えてくた。だが、逆に言えば、まだ必要でない、杉原が訊いていないだけのことは教えてはくれないのだ。

 そのことに杉原は疑問を覚えた。

予めきちんと説明しておいてくれたほうが良いのではないだろうか? と思ってしまったのだ。


「……師匠は、僕になんか隠しているんじゃないのか?」

「なんかって何よ?」

「さあな。分かんないよ。あの人は良い人だし、優しい人だけど、それだけの奴じゃないと思うんだ。と言っても、僕やひとみちゃん達を利用しようとしている、なんて展開はないと思うんだけどね」

「それは私達もないと思うわ。あの人は確かに召喚勇者に関わっていたけど、私達のような魔人に対して軽蔑の視線を向けたことはないわ」

「そうだねー。私もあの人の言葉に『嘘』を見たことはないんだよー」

「ああ、だから多分、何か理由があるんだ。僕に真実を話したがらない何かが……」

「……むう。考えすぎではなかとか?」

「師匠は確かに、なんだかんだで抜けているところはある。でも決して頭は悪くない。寧ろ頭の回転は良いほうなんじゃねえのかな。その師匠がここまで色んなことを忘れるかな。……なあ、青華。あと勇者の能力って何があるんだ?」

「ああ、そうやな……」


 杉原の言葉に青華は指折り数えて、思い出す。

 そうして口を開いた。


「えーと、まず職業が神殿で得られるものの他に勇者っちいうんがつく。そのお陰でいろんな効果が得られるな。それと魔力の大きい奴が多かな。で、レベルの上がりが早か。ゲームの中で色んな知識得ちょるってのもあるな」

「まあ、そこらへんは僕も知ってたな」

「そげんか。……あとは、さっき言った倒した相手が灰に変わるとか、勇者の肩書きがあれば生活も色々優遇されるとか、勇者連盟には入れるとかかな。オイはそげな面倒くさい(せからしい)のには入っちょらんけどな」

「なるほど、大体そう言うところか」

「ああ、そうそう。一番凄かとを忘れちょった」

「うん?」



「勇者はな、死に掛けると最寄りの神殿にテレポートするけん、基本死なん」



「「「……は?」」」


 今度の言葉には、杉原も有栖もひとみも完全に凍りついた。

 耳を疑った。

 だが、青華は驚いた表情で、当然のように言った。


「……知らんかったと?」

「――知るわけねえだろ!! 不死身ってどういうことだッ!!」

「いや……不死身ではなか。命に危険が及ぶと、神殿に瞬間移動するけん死なんだけくさ」

「何言ってんのよ!? 十分不死身じゃない!? 何でそんなに勇者は一方的な力を持っているのよ!?」

「オイにいわれても知らんバイ!! まあ、オイは死にかけたことないけん、まだ神殿送りになったことは無いっちゃけど」

「勇者という存在も厄介だけど、それをサポートしてる神殿も厄介なんだよー」

「本気で師匠に色々訊くべきだな……」


 勇者に与えられた様々な特権、それは異常、いやチートと言う言葉がまさしくあてはまるものだった。

 成長補正、能力補正、生命の保護、どれ一つとってもこの時代の一般人に与えられているものではない。

 これだけあれば勇者も強くなれるというものだ。

 寧ろこれで強くなれないほうがどうかしているだろう。


「師匠は何かを僕に隠そうとしている……。気になるな。マジでさっさとこんなダンジョンなんて出ないとやってられないっての」

「とはいえ、どうやって出るのよ?」

「また振り出しに戻っちゃったんだよー」

「やっぱ昨日みたいに地道に進むしかないだろ」

「それやけどな」

「あん?」


 結局、話がこれから先どうなるかについて戻ったところで再度青華が口を挟んだ。

 杉原は目線で話の続きを催促した。


「昨日はまだダンジョンも出来たばかりやったけん、突発的に擬似生物も生まれたと思うっちゃんね。やけん、今日からは少しくらい敵とのエンカウントも抑えられるやろ。秘留ちゃんが離れたところから敵影ば確認して、避けられる分には避けて進めばよかろうもん」

「ああ、そうか。出来たばっかりだから、あんな直ぐにモンスターがバンバン出てきたのか。そんなら今日は多少早く動けるか」

「多分やけどな」

「そうと決まれば早く行きましょ。こんなシャワーも何も無いトコに長居してられないわ」


 4人は頷きあい、支度すると出発した。

 なお、有栖の張った蜘蛛の糸は彼女が自分で食べた。

 蜘蛛は糸を自分のタンパク質から作るため、糸を出せばその分消耗する。

 それを少しでも補うために糸を食べて栄養を補充するのだ。

 ちなみに、杉原が無駄な勇気を出して糸を食べようとしたところ、口に絡み付いて大変なことになっていた。




「……なるほど。確かに、既に生まれた奴が闊歩してるみたいだな」


 そこから少しして、杉原達はダンジョンの中を移動していた。

 今は、曲がり角に隠れてダンジョンの中の擬似生物達を監視している。

 現在、杉原達の行く手を遮っているのは3体の土人形(ゴーレム)である。

 文字通り、土を人型に固めた人形であり、防御力に特化している。


「まあ、俺の魔崩弾(まほうだん)を打ち込めば防御もなんもないけど。それでも一撃じゃ死なねえよなあ。面倒だ」

「そうね。でも他のルートも無いし、突っ切るしか……。どうしたの? ひとみ?」


 どうしたものかと話し合っていたところで、何故かひとみが壁をこんこんと叩いて調べている。

 叩いて音を調べているようである。


「うーん。なんだか、ここだけ土の感じがおかしく見えたんだよー」

「ふうん、じゃあオイが殴ってみようか」

「ゴーレムに気付かれないか?」

「ゴーレムの聴覚は弱いわ。大丈夫よ」

「うし、じゃあ行くバイ」


 青華は軽くステップを踏んでリズムを図った上で、


「シィッ!!」


 鋭い右ストレートを放った。

 破砕音と共に壁が砕け散り――その向こうの空間が(あらわ)になった。

 どうも通路であるらしい。


「――隠し通路だと!? こんなもんがあったのかよ」

「驚いたわ。まさかこんなことが……!!」

「どげんする? 入るとか?」

「敵影は無いんだよー」

「ああ、魔力探知にも何もひっかからねえ」

「じゃあ、とりあえず入ろうかしら?」


 ひとみがまず中に入り、青華、有栖、最後に杉原の順番で這入(はい)った。

 もう一度中を観察するが、問題はなさそうだ。

 一行がそう判断したところで、後ろの壁の穴が音を立てて動き出した。

 土が隆起し、穴を塞いでいき最後には元通りに直ってしまった。


「……まあ、最悪また青華が壊せばいけるだろ。とりあえず、敵もいないしこのルートで行こう」

「ああ、そうやね。行くバイ」

「分かったんだよー」


 警戒を怠らずに、周囲を警戒しながら有栖達は進んでいく。

 暫く進んだところで、ひとみが軽く手を挙げて歩みを止めるよう指示した。


「……どうしたの?」

「ちょっと待って」


 有栖がそう声をかけたが、ひとみは具体的な答えは返さずにそのまま何歩か進んで行った。

 そして、地面に落ちていた何かを拾い上げた。


「それは……?」

「金属片……かなー? いや、もっと言うなら欠けて落ちた刃物の欠片か何かかなー? 一部分綺麗に研がれているんだよー」

「ちょっと見せてくれないかな?」


 杉原はひとみに近づき、ひとみの持っていた金属片を確認した。

 それは確かに小さく欠けた刃の破片のようであった。

 だが、何故こんなものがあるのかと杉原は首を捻った。

 出来たばかりのダンジョンに、自分達以外にも巻き込まれたものがいたのかもしれない。


「これを落とした人達に合流して何か話を聞ければ良いんだが……」

「ふむ、ならそう離れちょらんばい」

「え? 何で分かるんだ?」

「ダンジョンの中は自動修復に加えて、自浄作用があるけんな。多少の汚れや落としもんはダンジョンに飲まれて消える。冒険者達がダンジョンで死んだら、持っていた装備がゆっくりダンジョンに飲まれて、精霊の力を帯びた特殊な武器に変化することがある。ダンジョンのメリットの一つたいね」

「なるほどな。じゃ、とりあえず追うかな。でも友好的な奴かはわからん。盗賊かなんかかも分からんしな。気をつけていってくれ、ひとみ」

「分かってるんだよー」


 そこから更に歩き始めて少ししたときのことだった。

 再度、ひとみが手を掲げて全体の動きを止めた。

 しかし、額には汗を浮かべ緊迫した様子だ。


「……どうやら、誰かが戦闘しているみたいだよー。それも、大人数で少数を追っているみたい」

「なして分かると?」

「ダンジョンの壁や床に小さい傷が無数についてるからだよー。いや、もっと大きな傷だったんだろうけど、段々直っていってるみたいだねー。今もどんどん傷が消えて言ってるしねー。多分このまま進んでいけば、みんなにも見えるような大きな傷跡もあると思うんだよー」

「なるほどな。ちょっと待っててくれ」


 杉原はそう言うと、壁に手を当てて目を閉じ魔力のみで周囲を探る。

 すると、通路の大分先のほう、闇に包まれて何も見えない場所で魔力が揺らめいていることに気付いた。

 腰のホルスターから銃を抜き、構え、杉原は言った。


「誰かが戦ってんのはまちがいない。擬似生物と戦ってんのかな。だとしたら助けに行くべきかな」

「人間同士の可能性もあるでしょ」

「そりゃそうだけどさ。一度確認すべきだと思うよ」

「うだうだ言ってても仕方なかろ。行くバイ」


 そこからは4人で駆け出した。

 すると直ぐに、壁や床の傷跡がはっきりと見てとれるようになり、更に剣戟の音と怒鳴り声も通路に響いて杉原達の耳に届いた。

 何を言っているかまでは判別できないが、声質からすると数人の男達と、女性と少年が言い合っているらしい。


「――人間同士か。面倒なことになる気がするなあ。クソ!!」

「ばってん、今更知らん振りは出来んやろ」

「うーん、人間同士のごたごたに興味ないといえばないんだけどー」

「まあ、そりゃ僕もだけどさ。この状況に付いての情報は欲しいだろ」

「仕方ないわね。様子くらいはきちんと確認しましょうか」


 走りながら、取り敢えずの方向性を定め、4人は声の元に向かった。

 どうやら、彼らは通路の先の大きめの空間にいるようだ。

 幸い、その空間の出入り口は通路よりも狭くなっているため、壁際に張り付くようにすれば中からは気付かれずに内側を確認できる。

 とは言え体躯の大きい有栖は気付かれる可能性もあるため、杉原とひとみが中を確認し、青華と有栖は一歩下がったところで待機する。

 杉原とひとみが軽く顔を出し、様子を確認すると、声から判断したとおり剣を構えた少年が1人、鎧に身を包み、剣と盾を持った女性が1人、この2人が鎧に身を包んだ9人の男と対峙しているらしい。


(……あの女性と男達の鎧は同じものか。しかも装備がいい。この国の騎士か? 以前奴隷登録に行った騎士団の連中よりも……更に装備がいい。位が高いのか? それのあの少年、鎧は身につけてないが服装がきちんとしてる。誰だコイツら?)


 杉原は頭の中でそう思っていたが、ひとみも同じことを考えていたらしく、首を捻っていた。

 全員身なりは良いのだが、中でも特に少年は異質だ。

 短く切られ整えられた赤髪、赤い瞳、白い肌、そして身に纏う黒を基調とした礼服、確実に一般市民ではないだろう。

 だが、その正体は直ぐにわかった。

 それまでは通路に響いていた所為ではっきりとは聞き取れなかった声が、近づいたことではっきり聞き取れるようになったからだ。


「クックック。申し訳ありませんねえ。王子よ。そろそろ良い頃合ですので。死んでいただきましょうか」

「貴方は……ッ!! 騎士ともあろうものが、恥は無いのでございますか!?」

「何を言いますかね? 騎士に忠義を尽くそうと思わせることが出来ないものに、部下に裏切られる程度のものに王となる器など無いでしょう?」

「……ぐうッ!!」


 その言葉に少年は歯軋りした。

 悔しいが、正論に言い返すことが出来ない、そんな表情であった。

 そして、それまでの言葉である程度察していたが、騎士達のリーダーらしい男の言葉で杉原達はその少年の名をはっきりと知った。




「では、死んでください。ヒガシミヤコ王国第3王子、東竜堂(とうりゅうどう)元親(もとちか)よ」


こちらのツイッターで更新の告知などをしております。

よろしければお使いください。

世野口英 https://twitter.com/senogutihide

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