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タイムスリップは魔法の世界で。  作者: 世野口秀
第1章 タイムスリップのはじまり。
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第1話 照れちゃうんですけど

不束者ですが、よろしくお願いします。

「先生すみません。角を曲がればパンを咥えた女の子との運命的な出会いが出来るのではないかと思って、角を曲がりまくっていたら道に迷って遅刻しました」

「色々言いたいことはあるけど、とりあえず本当にぶつかったら、あんた自転車通学だから普通に事故よ」

「その発想は無かったわ」


 一人の高校生が遅刻して教室に入るなり、教師とそんな会話を繰り広げていた。会話と言うよりコントに近いのかもしれないのだが。


「いいわ、杉原は席に着け。話は後でいいから」

「はーい」


 そう言ってその生徒、杉原(すぎはら)千華(せんか)は着席した。周りのクラスメイトは慣れているのか何も気にしていない様子だった。

 しかし、そのとき丁度チャイムが鳴った。


「ああ、もう一時限目終わったじゃない。しょうがないわね、杉原。あんた一応昼休みに職員室来なさい」


 授業を終え、日本史教師であり、杉原達の属する3年2組の担任教師でもある、羽原(はばら)京子(きょうこ)はそう言い残して教室を去った。


「なあおい杉原。お前ホントは何で遅刻したんだ?」

 羽原が去ると、杉原にクラスメイトの田中(たなか)雄二(ゆうじ)が話しかけてきた。


「さっきも言ったろ。12歳くらいのロリっ娘が道に迷って泣きそうになってたから、手を引いて一緒にお母さんを探してたんだよ」

「さっきと言ってること違うじゃねえか」

「お母さんを見つけたとき、その女の子がお礼って言ってほっぺにチューしてくれてさ、将来はお兄ちゃんのお嫁さんになってあげるとか、はにかみながら言ってくれたらいいのに」

「お前の願望じゃねえか」

「何で僕は恋愛できねーのか。イケメンなのに」

「そう言うところが駄目なんじゃねえの? つーかお前の見た目威圧感あって恐いんだよ」


 田中の言うことも尤もである。杉原の身長は185センチ、髪をざっくりオールバックにまとめ前髪を幾房か垂らし、銀縁の丸めがねをかけている。そして顔立ちが割りとはっきりしており、目つきも良くない。

 それでいて表情はにやにやとした笑みを終始浮かべているので、得体の知れない雰囲気を纏っているのだ。


「恋愛とかクリックすればいいだけじゃねーのかよ」

「それは恋愛ゲームの話だろうが」


 二人がそんな会話を続けていると、


「杉原君たち、またそんな下らないことで騒いで。もう高三なんだからもうちょい真面目に進路考えた方がいいよ」


 とクラスの沢田(さわだ)裕子(ゆうこ)が話しかけてきた。


「ヒュー! 彼氏のいる奴は言うことが違うね。流石リア充。なに、竜くんとは上手く行ってんの?」

「は、ハァ!? べ、別にあたしと竜のことは関係ないじゃん」


 竜くんとは3年3組の男子で、沢田の交際相手である。

 クラスメイトには交際がばれている。ばらしたのは杉原だが、彼女達はバカップルなので満更でもなさそうだった。


「いやあ、そう言えばこの間、竜くんとデートで遊園地行ったんだって? 仲いいじゃないのー。いえーい」

「ハアア!? なんで知ってんの!?」


 杉原の発言に沢田が驚愕した。一部の友達にはそのことは話してあるが、その一部に杉原は含まれていなかったからだ。


「それ誰から聞いたの!?」

「君んとこのお母さん」

「何で!? 接点無いでしょ!?」

「昔、授業参観のときに話しかけて仲良くなってSNSでやり取りしてるよ。幼少期からお菓子欲しさに、おばちゃんの井戸端会議に混じってきた僕のババア相手のコミュ力をなめるな」

「何してんのよ!!」

「ははは。沢田のプライベートバレバレだな」


 田中が杉原の横で声を上げて笑う。


「いやでも僕は田中の母さんとも知り合いだぜ」

「ハアアアア!?」


 だがその笑いも、杉原の発言でかき消される。


「つーか僕はクラスメイト全員の親と知り合いだね」


「「「「「「「「ええええええええ!?」」」」」」」」


 それまで「ああ、また杉原達がアホなことを話しているなあ」程度にしか思っていなかったクラスメイト達も、驚愕で声を上げた。


「何してんの!? お前まさか余計なこと聞いてないだろうな」

「余計なことっつーか、まあクラスメイトの恋愛事情で親の知っていることは僕も知っていると思ってくれたら大体あってる」


「「「「「「「「「ふざけんなああああ!!!」」」」」」」」


 クラスメイト達が一斉に詰め寄ってきた。当然といえば当然だが。


「フハハハハハ!! お前らの親が知ることは僕も知り、僕が知ったことも全て親御さんに話している。お前らのプライベートはもはや色々筒抜けなのだああああ!!!」

「お前何余計なことしてんだ!!」

「死ね!! いっぺん死ね」

「何してんのよ!! ママもママだけどさ!!」

「クッソ!! あのクソババァ帰ったら問い詰めてやる」

「童貞の癖に……」

「おい今僕に童貞って言った奴どこだ!? 僕はただの童貞じゃねえ。こじらせた童貞だゴルァ!!」

「うるせーぞ2組!! もう始業のチャイム鳴ってんだろうが!!」


 チャイムが鳴り響き2時間目の数学教師が来ても、2組は騒ぎっぱなしだった。




「杉原。お前が職員室に呼ばれた理由、分かってるな?」

「はい。……先生の気持ちは嬉しいんですけど、やっぱり教師と生徒で関係を持つのは……」

「お前何にも分かってねーじゃねーか!!!」


 杉原は職員室で羽原に怒られていた。クラスメイトだけでなく、教員も慣れているのか、杉原を見て「ああ、またか」と笑って済ませていた。


「杉原、お前今日遅刻したらしいな。3年にもなってみっともない」


 だが、笑って済ませない男も居た。

 体育教師の後藤(ごとう)健一(けんいち)である。彼は去年、杉原のクラスの体育を受け持っており、学年最後の授業で協調性や集団の重要性について語っていたのだが、杉原、というか生徒にとっては「あー、言うこと薄っぺらいし浅いな」という感想しかでないものであった。

 周りの生徒はそれでも聞く振りはしていたのだが、杉原だけ近くの木に止まっていたスズメを見ながら「あー、寒い時期のスズメってほわほわしてて可愛いな。ふくろうとかも可愛い。いつかふくろうを飼ってモフモフしてみたいな」なんてことを考えていた。


 そのことに気付いた後藤は憤り、「お前のような奴が、協調性が無くて、社会に迷惑をかけるんだ!!」と怒鳴ったのだが、そこで終わらないのが杉原という男である。


「先生。先生がこの場において定義している協調性や社会とはどういう意味なのですか? 当たり前のように使っていますが、こういった言葉は状況により意味が変化します」


 という話から始まり、最終的には杉原の「そもそも『社会』という言葉は明治初期まで日本で使われることは少なく、福地源一郎が『society』を訳す際に使用したため広まったものであり――」といった具合の杉原の知識と舌で、後藤は丸め込まれてしまった。それ以降、後藤は杉原に突っかかられるようになったのだ。


 と言っても、今の杉原のクラス、2組の体育担当教師は今田という教師に代わり、杉原は今田と仲がよく、後藤は基本的にはこの職員室とは別の体育教官室にいるので、そこまで会わずに済んでいたのだが、今日はたまたま後藤がこちらに来ていたのだ。


「いやあ、登校中に僕の封印されていた右手がうっかり覚醒しかけまして。封印に苦労しました」

「おい杉原。遅刻の理由ころころ変えんな。あと後藤先生、杉原には私のほうから言っておきますので、お気になさらずに」

「いえ。こういう教師をなめている生徒にはがつんというべきなんです」

「がつん。はい、言ったのでもう結構ですよ」

「羽原先生!! 私はそう言うことを言ってるんじゃない!! ふざけないでいただきたい!!」

「すみません。うちの羽原先生が。僕のほうからがつんと言っときますんで。がつん」

「いや元々の元凶は貴様だ、杉原!!」

「大丈夫です。僕は教師をなめているわけではないです。教師にも色んな人がいるというだけですよ」

「ああ、そうか……。って貴様、それはどういうことだ!!」


 杉原が火にガソリンをぶちまけるようなことを言った。だが杉原は自分で言ったとおり、教師というものを馬鹿にしているわけではない。実際、羽原を相手にふざけたことを言うことはあるが、羽原の言うことはきちんと聞くし敬意も払う。

 ただそれは羽原の人格に対し、杉原が敬意を払いたいと思っているからだ。

 逆に後藤のような立場だけの偉そうな人間、というものに杉原は敬意を持たない。もちろん、生徒と教師なので敬語を使い、頭を下げて挨拶もするが、杉原としてはそれ以上のことはしない。

 そうする理由が無いと思っている。こういう性格なので、杉原は嫌われるときは嫌われるのだが、本人としては興味も関心もないのでそんなことは気にしていない。


「あー、後藤先生。すみませんが、杉原の遅刻には理由があるんですよ」


 怒りで顔を真っ赤にしている後藤を宥めるため、羽原は髪をいじりつつそう言った。その言葉に杉原は顔をしかめ、後藤は呆気にとられた顔をした。


「理由? 理由って何ですか?」

「杉原を私は3年間見ていますが、今まで遅刻早退欠席は今まで一度もありませんよ。まして私達のクラスは進学コースなので、普段は朝から課外授業がありますが、今日は教員会議の都合でありませんでした。いつもより遅い時間からの授業に遅れるほど杉原は不真面目じゃないですよ。適当ではありますけど。そのことが気になって理由を聞こうとおもっていたらつい先ほど、ある女性が電話してきました」


 羽原の言葉に、杉原は誤魔化すように吹けない口笛を吹く。口から空気が漏れるだけだが。


「その女性とは?」

 後藤がいらだちを隠せない様子で催促する。


「なんでも今日の朝、杖が折れて動けなくなったおばあさんを、たまたま通りがかったやたら背の高くて丸眼鏡をかけ、うちの高校の制服を着た男子生徒が、おんぶして知り合いの家まで連れていってくれたそうなんです」

「へー。そんなことがあったんですかー」

「……多分遅刻してしまったから、お詫びと感謝を告げたいとのことです、ただその生徒は名前も名乗らず自転車に乗ってそのまま学校に行ったから、名前は分からないものの、できればよく計らってくださいとのことです。杉原、コレお前のことだろ?」

「知りませんね。背の高い丸眼鏡の男子生徒とかこの学校にも300人くらいいるでしょ」

「いるわけ無いだろ。うちの全校生徒でも1000人くらいだぞ。男子の過半数超えてんだろーが。背が高く丸眼鏡なんて掛けてて、そのうえ今日遅刻したのはお前くらいだろ」

「なんのことかわかりませんね」

「そういえば、老け顔で高校生には見えなかったとかも言ってたな」

「あのバーさん要らんことまで言いやがって!!」

「ほう、あのバーさんか。なんだ? このおばあさんと知り合いなのか、杉原?」

「いえ。僕が言ったあのバーさんというのは日本人ではなく、昔近所に住んで居たネバダ出身のアメリカ人であるアノバーサン・スミスという人のことをふと思い出しただけです。お気になさらずに」

「お前ホントに舌が良く回るな……。まあ後藤先生、後はこっちでしますから」

「……そうですか」


 後藤は忌々しそうな顔をして杉原を睨むと去って行った。

 それを見て羽原もため息をつく。後藤は年上で教員としても先輩だが、羽原も後藤の横柄な態度が気に入らないのである。


「先生、僕も戻っていいですか? 僕は正直、今日は寝坊しただけです。以後気をつけますので」

「……なら、この電話の生徒はお前以外の誰かにしておくよ。でも杉原」

「なんですか? 羽原先生になら……、僕全部捧げます!!」

「要らん。ただ私の質問には答えてくれ。……お前はなんで他人から評価してもらえることも隠そうとする?」

「さあ? 何ででしょうね? 意味があるかもしれないし、ないかもしれませんね。ではでは、失礼いたしました」


 そう言って杉原は職員室を後にした。

「まあ、お前はそう言う奴だよな」

 羽原はそう、呟いた。




「あー、死んでなかったけど生き返る」


 杉原は学校を終え、放課後の教室で課題と自主学習を終えた後、家に帰り、今は風呂にのんびりと浸かっていた。

 杉原は福岡に住んでいるのだが、九州と言えどまだ春は日が落ちた後には多少冷えることもある。そんな中自転車を走らせれば体も冷える。

 寒さでこわばった体をお湯が解す。

 ちゃぱちゃぱと音を立てて、なんとなく水面を波立たせて遊ぶ。

 そのまま体が火照るまでお湯に浸かる。すこし体が熱くなってきた杉原は一度湯船から上がり、体を冷まそうとした。


 だが立ち上がった瞬間、何も無いはずの壁からメキメキと音が聞こえた。

 杉原がそちらに目を向けると。



 空間が割れ、空間に黒い穴がぽっかりと開いていた。そう表現するしかない光景だった。



「え?」



 杉原は独りでもジョークを飛ばす。気分次第で。何かが起きれば。杉原はおしゃべりだが、独り言も多いという喧しい男なのだ。

 お陰でクラスの女子には「杉原君と居ても落ち着ける気がしないし、付き合うとか無理」と全員から言われている。告白していないどころか、好意があるわけでもないのに振られるのが杉原千華の能力だ。

 そんな杉原も、ただその一言しか言えなかった。

 次の言葉を発することも出来ないまま、杉原はその空間に飲み込まれた。




 杉原は光に包まれるような感覚に陥った。

 そしてまばゆい光が晴れると、杉原の目には見覚えの無い光景が飛び込んできた。


 石造りの建物の中にいるらしく、足元は冷たい石で出来ている。光源も少なく全体的に暗い。先ほどまで光に包まれていた反動もあって、そのため周囲は良く見えない。それなりに広いスペースだ。自分が今立っている場所には、石床に赤い塗料で魔方陣のようなものが書かれている。

 体に付着したお湯がぽたぽたと垂れるが、塗料は溶けない。

 水溶性ではないのだろう。


 杉原がそこまで考えたところで、目が暗闇に慣れて周囲の様子が見えてきた。

 そして杉原はやっと、この建物の中にはそれなりの人数の人間がいることに気付いた。

 ローブを纏っているものが多く、またそうでなくとも全員フードのようなものを被っている。

 彼らも光に目がくらんでいたが、目がなれて杉原の姿を、全裸の杉原の姿を見て絶句した。

 


「イヤーン。そんなにじっくり裸を見られたら僕照れちゃうんですけど」


「「「「「「「いやなんで全裸なんだよ!!!」」」」」」」


 杉原はよくわからないままボケて、よく分からないまま突っ込まれた。


「いや風呂入っていたもんで。僕が濡れてるの見たらわかるでしょ」

「きゃあああ変態!!」

「見てはいけませんよ!!」

「露出魔よ!!」

「おいちょっと!! 僕が意図的に全裸みたいな扱いやめてくんない!?」

「と、取り合えず服じゃ!! 服を持ってまいれ!!」


 怒号が飛び交い、人々がどたどたと駆け回る。


 そんな様子を見ながら、千華は(なんか裸であることを恥じるタイミング失ったなあ)と思いつつ、濡れた髪をオールバックにまとめながら魔方陣の上に立っていた。




「で、僕は一体全体何に巻き込まれてしまったんでしょうか?」


 とりあえず、用意してもらったワイシャツとスラックスに革のブーツという格好に着替える。幸い眼鏡をかけたまま風呂に入っていたので、眼鏡だけは持っていた。といっても杉原の視力は極端に悪いわけではないため、日常生活でもかけなくてはいけないわけではないのだが。

 眼鏡をかけているのは単に、杉原が眼鏡好きということが大きい。


「ふむ、そのことをきちんと教えねばならんな。私はこの、召喚勇者教育所ヒガシミヤコ王国本部の本部長、大沢(おおさわ)(あきら)である」


 偉そうな喋り方で、背中に刺繍の施されたローブを纏った恰幅のいい男が答える。

 茶髪で、あまり日本人らしくない顔だが名前も言葉も日本語だった。

 だから杉原には言っていることは分かる。

 しかし言葉の意味は分からなかった。



「はじめまして。杉原千華、高校3年生で17歳です」

 とりあえず、杉原も名乗り返した。

 だが聞きたいことは山のようにある。


「すみませんが、この状況が分かりません。教えていただけませんか?」

「であろうな。君には勇者として来てもらった……というのとは少々違うがな。しかし君は我々が勇者と呼ぶものに近い存在ではあるのだが」

「申し訳ないのですが、いまいち要領を得ないです。勇者とはどういうことですか?」

「うむ。今我々は魔王の侵略の危機にある。そのため魔王に対抗するための勇者をかき集めているのだ。君も時代を超えまたそうして集められた一人なのだ」

「えーと、つまりあなたは僕が魔王を打ち倒すために異世界に呼ばれた勇者の一人であるというんですか? いや、時代がどうとか言ってましたね。どういうことですか?」

「異世界か。そのことについては自分の目で見たほうが早かろう。冬木、案内してやれ」

「はい」


 荒唐無稽な話に、杉原も困惑していた。異世界に来てしまったと言うのか? 信じられない。杉原はそんな気持ちで一杯だった。そこに冬木という大沢と同じローブを纏った女性が歩み寄ってきた。


「はじめまして、杉原さん。冬木(ふゆき)(ひいらぎ)と申します」

「こちらこそはじめまして、冬木さん」


 そこで杉原は彼女の顔をはっきり見た。綺麗な銀髪の50代半ばの女性だった。凛々しく整った顔は優しげな笑みを浮かべ、ああこの人の若いころは美人だったろうな、と杉原はなんとなく思った。

 だがそれ以上に気になったものは、彼女の耳だった。

 彼女の耳は細長く、ぴんと伸びていた。

 その様子をみて


「エルフ……?」


 と、杉原は呟いた。彼女の見た目はまさしくエルフのそれだった。


「ええ、そうですよ。ふふ、はじめて見たでしょう?」

 杉原の答えは容易く肯定された。


「……それは何らかの特殊メイクとかですか?」

「いえいえ、自前です」


 冬木と呼ばれたエルフは悪戯っ子のような笑顔で答えた。


「ついて来てください。あなたの置かれている状況について説明しますので」


 杉原はまだこの状況が何らかのドッキリか何かなのかとは思っていたが、取り合えず冬木のあとをついていくことにした。

 先ほどまで居た魔法陣のある部屋を出て、廊下をしばらく行くとテラスに着いた。

 どうもこの建物は高さもそれなりにある上に、山の中腹に立っていたようだ。テラスからの眺めは中々のものだった。

 木と石を組み合わせて作られた建物が多く、綺麗な街並みと青い海が一望できた。

 それはまさしくファンタジー世界のような街だった。

 だがそこに違和感があった。みたことが無いものの中に、見覚えがあるものが混じっていた。

 既視感(デジャブ)などではなく、はっきりと見覚えのあるものが混じっていたのだ。


「……富士山じゃねえか」


 そう、福岡生まれ福岡育ちで、富士山を直接見たことは数えるほどしかないが、それでも日本人ならテレビや雑誌で散々見たことがあるであろう富士山が、見えていた。

 見間違えることもない。

 彼の記憶の中にあるものと、それは寸分違わぬ姿だった。


「ええ、富士山です」

「え? じゃあここはやっぱり日本ですか? というか僕は福岡に居たのに何で富士山が見えているんだろう? よく分からないんですが」

「はい、結論から説明しましょう。ここは日本ではありません。いえ、厳密にはもう日本でなくなったというべきですね」

「……どういう、ことですか?」




「ここは、未来の世界なんです」


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