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「それじゃあ、私が黄の一族で聞いたお話とは印象が違いますね。聞いた話では、メルバさんには頼めないから、黄の一族の長の診療は中央で働いていた別の深緑の森の一族の方に頼んだのだそうです。でも、今お聞きした感じだと、診療を頼めないようには思えませんでした。」
メルバさんはずっと心配してたんだよね?
それに、グレゴリーさんが訪ねてきたって話もあったから、まったく面識がないってこともないと思うんだけど。
…遠慮したのかなあ?
昔のこととはいえ、あんまりな話だったし。
「なんと。黄の一族の長は診療を受けておったのか。誰じゃろう?」
「中央か…。最近街に出た若いもんじゃないかのう?最近の若いもんは中央に行きたがるからの。」
「未熟なものが行っても仕方ないんじゃが、ありそうじゃなあ。」
中央地区って若いエルフ達に人気なのか。
じゃあ、経験の浅いお医者さんに当ったわけだ。
それにしても、聞いた診療の内容はあんまりだと思うけど。
それも聞いてみようか。
「そうなんですか…。実は、黄の一族の長のおつきの方に伺ったんですが、長が病だからと見てもらったら、「見たことが無い」、「恐ろしい病だ」と口ぐちに言って、これ以上の診療は出来ないと帰ったそうなんです。それでせめて、魔素の多い物をと思い余って、ネロのウワサを聞いて捕まえようとしたんだそうで…。」
「なんとっ。それがネロが誘拐されかけた理由かっ。」
「診断をしたのはどこの誰じゃっ。病の者に向かって何ということをっ。」
「まったくじゃ。…しかし、おかしいの?そのような報告聞いておらん。知らぬ症例は里に報告するのが義務じゃというに。」
どうもこの件に関しては知らなかったようだ。
長老さんたちは渋い顔だ。
知らない病気は報告の義務があったのに、それもしてなかったとか。
まあ、お医者さんが逃げ帰ったなんてこと自体かなり問題だと思うけど、その3人は他にも問題がありそうだなあ。
「…ハルカちゃんや。そのことを長に報告したかの?」
「メルバさんに…ですか?…いいえ。例の生き物のことにばかり気がいってましたから、詳しくは…。」
「伝えた方がええじゃろう。」
「うむ。もしかしたら、問題が1つ解決するやもしれんて。」
問題?その3人のお医者さんのことかな?
私が首を傾げても、長老さん達はフムフムと訳知り顔で頷くばかりだ。
カッカッ
「はい。」
「僕だよ~。入っていい~?」
「だめじゃ。」
「嫌じゃ。」
「無理じゃ。どうせ、何処ぞの甘味所に寄り道しとったんじゃろ。」
私が返事をする前に長老さん達が口ぐちに文句をいい始める。
ドアの向こうで押し黙ると、メルバさんがずかずかと部屋の中に入って来た。
「む~。ちょっと~。何でジジイ達がいるわけ~?ハルカちゃん、こんな逝きそこないに付き合わなくていいんだよ~?」
「ほっほっ。ハルカちゃんは優しいですからのう。」
「うむうむ。わしらに美味い茶を入れてくれましたわい。」
「楽しいひと時でしたなあ。…羨ましかろ?」
「むき~。何かむかつく~。ハルカちゃんっ。僕にもお茶頂戴~。」
「あ、はいっ。」
何だかさっきまでのシリアスな空気が吹き飛んだ。
メルバさんと長老さん達が揃うと、どうしてもコントになるんだよね。
でも、さっき長老さん達に言われたことは忘れずに聞いておかなきゃ。
何の問題かわからないけど、解決するものがあるならそれがいい。




