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「どうぞ。」
「おお。すまんのう。茶菓子はないのかのう?」
「ほっほっ。フェラリーデがここらに隠しとるはずじゃて…ほれ、あった。」
「気に入りの菓子を箱の底に隠すクセは直っとらんのう。」
いいんだろうか。勝手に漁って。あ。食べちゃった。
…うん。見てない見てない。なーんにも見てない。
私は知りませんよ~。フェラリーデさ~ん。
でも、後でお菓子の差し入れはしとこう。
「むぐむぐ。さて、グレゴリー達の祖母の話じゃったの。」
「ずずずっ。ふう。あの子は立派な薬師になった。」
「ごっくん。よく勉強したわい。知識が無いことの恐ろしさを身に染みて知っておったからの。」
薬剤師さんになったんだ。
そりゃ、そんな目に合えば知識が欲しいって思うかも。
「息子も出来た。幸せそうじゃった。」
「そこに父親から手紙が来ての。」
「「戻ってきてくれ」と書かれておったそうじゃ。娘が去ってから声の能力者が生まれなくなったらしい。」
「そんな勝手な。それに生まれないのも偶然じゃないんですか?」
自分で追い出しておいて、戻ってきてくれ?
なんて勝手な。それが親の言うことなの?
「それがそうとも言えんのよ。」
「不思議なもので、特殊な能力というものは近くにいるものに影響を与える。当代一の能力者がいなくなれば、次は生まれにくいじゃろう。」
「能力者がいることでまとまっておった一族じゃ。おらんようになったらどうなるか。」
「…じゃあ、グレゴリーさんのお祖母さんは戻られたんですね?」
「そうじゃ。持てるだけの薬草の苗と薬を持っての。家族で戻った。」
「それが良かったようで、歓迎されたようじゃった。」
「当時の子供たちも大きくなっておったからじゃろう。味方がいるから大丈夫だと手紙に書いておった。」
良かった。上手くいってたんだ。
でも、長老さんたちの顔が暗い。
「それが、最後の手紙になった。」
「突然、亡くなったと知らせが来て。」
「それっきりじゃ。長が向かったが、街に入れてももらえんかったそうじゃ。」
そんな…。
ようやく呼び戻した能力者がすぐに亡くなるなんて…。
(ホントに病気だったのかな…。もしかしたら…。)
答えは長老さん達の顔に書いてあった。
眉間に深いシワを作って、とても悲しそうだ。今でも悲しいんだろう。
(家族で戻った…それってお子さんは?お子さんも能力を持ってたなら…。)
子供なら言いなりに出来ると考えたとしたら…。
すごく嫌な話だ。でも、これまでの話からすると有り得そうなことだ。
「ハルカちゃんが考えてる通りのことが起こったとわしらも思っとる。」
「っ。」
「何もかも不自然じゃったからな。伴侶の無事もわからんかったし。」
「じゃが、当時はそれまでじゃった。それからグレゴリーの坊やたちがこちらを訪ねて来るまで、一切の情報は入ってこんかった。」
どうなったんだろう。
グレゴリーさん達が生まれたってことは無事に大人になれたんだろうか。
「可哀そうにのう。子供の方は、事故で足をケガしてからは、生涯部屋から出られんかったそうじゃ。」
「子を作るだけの道具とされたのじゃ。一応は長と呼ばれとったそうだが。」
「グレゴリーは双子じゃったが、他にも兄妹はおってな。皆、母が違うのよ。」
…頭がついていかない。
何それ。事故って、本当に事故だったんだろうか。
「それでも、その子は自分の子を大事にしたそうじゃ。1日1度は全員と会ってな。よく話を聞いてくれたとグレゴリーたちは言っておった。」
「良い父であったと言っておったの。薬の事も外の事も教えてもらったそうじゃ。」
「祖母の話も聞いたと言った。ホーソン病にかかった子供たちの子や孫とも話をして、味方を増やしていったそうじゃ。」
ああ。それで、外に出てこれたんだ。
少しずつ自分たちの味方を増やして、いつまでも閉じこもるわけにはいかないと説得して。
苦労されたんだろうなあ。
そして、今度はオルファさんがホーソン病にかかってしまった。ってことかあ。
じゃあ、私が行った時のグレゴリーさんの視線って、警戒してたのもあるのかな。
長が動けないから、私が一族を守らなくてはって。
それにしては失礼な視線だったけど。
あれでバレてないとでも思ったんだろうか。
「そういう事情だったんですね。それでグレゴリーさんはメルバさんに面会出来ないって言ってたんですか。」
「おや。そんなことを言うとったのか。」
「そんなことないがのう。あの子は里で育てた子の系譜じゃ。知識の大事さをよう知っておる。一族も同じよ。」
「第一、当事者の長が気にしとらんのに。心配はしとったがの。あの子らからしても、何代も前の話じゃし。親の罪は子に背負わせるべきではないと長なら言うじゃろう。」
あれ?話を聞いた印象が違う。
これって何か誤解があるんじゃないだろうか。




