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取り次ぎのひと達は食い下がっていたけど、長と呼ばれた男性は笑って取り合わず、直々に案内してくれた。
奥に進む時にちらりと見ると、取り次ぎのひと達は大慌てで通信機でどこかに連絡しているようだった。
段取りが狂ったんだろうなあ。
きっと部屋ごとにああいう取り次ぎのひとがいたんだろう。
「驚かれたでしょう?我が一族はどうも形式ばったことにこだわる者が多くて困ったものです。」
「困った」の部分で魔素がため息のように流れてくる。
本当に困ってるんだろうなあ。
もっとスムーズに物事を勧めたいんだろう。
でも、周りがついて来てくれないってとこかな。
「形式も大事なものです。青の一族の方々のおかげで貴重な技術がいくつも保存されました。」
「はははっ。確かに。それだけは誇れますな。」
クルビスさんと長の男性が和やかに話しながらさらに進んでいく。
幾つもの建物を通っているけど、応接室にはまだつかない。
(これも「形式」ってやつなんだろうけど、遠いなあ…。2階建てにすればいいのに。)
多少呆れながらついていくと、大きなカエルのレリーフが施された木製のドアの前についた。
珍しい模様で、カエルが上にジャンプしている姿だ。エサでも取ろうとしているのかな。
勢いがあって、まるで今にも動きそうだ。
でも、何だか見覚えのある気がする。
(…まさかね。気のせい、気のせい。)
自分の考えを振り切って、何事もなかったように装う。
私とは逆に、クルビスさんはドアのレリーフに興味を持ったようだった。
「これは…見事な細工ですね。」
「深緑の森の一族の長さまのお宅にあったドアなのですよ。当時の我が一族の長が大変気に入ったそうで、我らと交易を始める時に親交の証として譲っていただいたのです。」
(メルバさん家にあったドア…もしかして。)
部屋に招かれながら、ある予感がヒシヒシとする。
…あー兄ちゃんだったりして。ドアにカエルってとこが特に。
「このような意匠もあるのですね。植物の模様しか知りませんでした。」
「何でも、深緑の森の一族の長様のお友達が作られたデザインを元にしたとか。躍動感があって今にも動きそうな見事な意匠でしょう?元のドアは残念ながら失われてしまったそうですが、忠実に復元されたのだそうです。」
世界樹のお宅を思い出して、クルビスさんと顔を見合わせる。
ドアに花咲かすだけじゃなくて、生きたカエルもつけたのか。
(カエルはさすがにうるさかったんじゃないかなあ。それで、処分された、と。)
たぶんそう。絶対そうだ。
今思い出したけど、あれって、あー兄ちゃんが小学校の頃に美術の時間に描いた絵と同じ構図だ。
絵の完成度は比べるまでもないけど、賞をもらって、家でしばらく飾ってたっけ。
見覚えがあるはずだよ。
絵のままにしておけばいいのに、何で立体にしようとしたのか。しかも生物。
自分の兄のセンスの無さに内心頭を抱え、カエルの生えたドアをあそこまで芸術的にデザイン化したエルフ達へ尊敬と感謝の念をますます強くした。




