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「…うん。ありがとう~。ハルカちゃん~。こちらこそよろしく~。」
「…ええ娘さんじゃあ。誠実この上ないっ。」
「まったくじゃあ。アタルとえらい違いじゃ。」
「あやつは、お願いどころか「今日から世話になる」と勝手に居座りおったからのう。」
私が頭を上げると、メルバさんと長老さんたちが一斉に口を開いた。
半分あー兄ちゃんの愚痴が入ってたけど、居座ったって何やってんのあー兄ちゃん。
でも、私の決意は伝わったようで、皆さん頷いたり微笑んだりして肯定してくれた。
よかった。ここでの一番の大仕事は無事に終わったみたいだ。
「じゃあ、次はクルビス君、お願いね~。」
メルバさんの司会にクルビスさんが頷いて台に上ってくる。
次は婚約の発表だ。私は檀上でそのまま待機する。
「皆さんお久しぶりです。メラの息子のクルビスです。もうすでにご存知のことと思いますが、このたび、私とハルカは婚約しました。」
ここで会場から割れんばかりの拍手と歓声が鳴り響く。うわっ。すごい音っ。
あまりの勢いに思わず後ろに下がりそうになったけど、クルビスさんが支えてくれたおかげで踏み留まれた。ありがとうございます。
「詳しい日時は決まってませんが、雨季の前には式を挙げるつもりです。」
続くクルビスさんの報告に今度は驚きの声が上がる。
それもそのはずで、守備隊の隊長・副隊長ともなると伴侶を得るのは街の公式行事になって、最短でも準備に半年は必要とされているからだ。
通常なら、まず、婚約を決めてから数か月から半年かけて各一族の長に報告に行き、各一族の集まりで大々的にお披露目をする。
それとは別に、同時進行で公式行事となった式と祝宴の手配もしなくてはならない。
当然、規模も大きくなって手伝いのひともつくけど、式と祝宴に関しては最終的に花婿と花嫁が決めなくてはいけないので、時間と手間がすごくかかるらしい。
式の日は街のいたる所で祝われるため、各地で行われる祝宴やそれに合わせた警備の相談もあり、だいたい1年はかけて準備を行うのだそうだ。
なのに、私たちは今年の雨季の前に式を挙げる。
後り2ヶ月を切った状態だ。これはかなり異例な話だとメラさんが言っていた。
「若いもんはせっかちじゃのう。」
「いやいや。ルシェリードさまもフィルドさまも婚約から式は早かった。血筋じゃな。」
「そういやそうじゃったの。おふたりとも宥めるのに苦労したわい。クルビスさまも待てんかったか。」
「婚約の時にハルカちゃん怒らしちゃったから不安なんだよ~。」
「なんとっ。」
「それはいけませんな。」
「わしらがひと肌脱がなくては。」
脱がなくていいです。もう大丈夫ですから。
今だ収まらないざわめきの中、長老さん達とメルバさんが好きなことを言っている。
聞こえてますよ。周りも聞き耳立ててるし。
あ。クルビスさんの牙がちらちら見えてる。そろそろ限界かな?