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トカゲと散歩、私も一緒  作者: *ファタル*
スタグノ族・黄の一族
83/360

活動報告で告知した6時投稿です。

ちなみに、引っ越し作業はほぼ終了。

2時くらいまでかかってしまいましたε-(´∀`; )

 どうしてネロを誘拐したのか聞くと、アングスと名乗った給仕の彼は辛そうな顔で「こちらへ…。」とさらに静かな方へ誘導しながら簡潔に事情を話してくれた。



 彼の主、つまり、黄の一族の長が奇病にかかり、日に日に弱っていく主のために黒一色のネロのウワサを聞き、それ程のセパなら魔素も豊富であわよくば主の容体が回復するかもしれないと考えて誘拐を企てたのだそうだ。



 詳しく言うと、奇病っていうのは、ホーソン病のこと。

 1000年に一度の周期で流行る病気で、日常生活で消費する以上の魔素が失われる。



 その上、かかるのは50歳から200歳までの間の限られた年齢のものだけという特徴を持つ。

 既存の薬では効かず魔素がどんどん減っていくから、ホーソン病は死亡率100%の奇病として昔から恐れられていた。



 魔素が減るという異常さから、地方では呪いとして恐れられ、親族から縁を切られることもあったとか。

 そんな風に、誰もが忘れたころに流行って、恐れられたままこれといった手だてが確立されないうちに忘れられるということを繰り返していた。



 それが今から1000年前、つまり前回流行った時にメルバさん率いるエルフ達が薬を開発したらしい。

 ドラゴンたちの記憶により、一定の周期で流行ることを知ったメルバさんが薬の開発に踏み切ったそうだ。



「いずれ流行るなら対策は考えるべきだ。子や孫がかかってもいいのか。」と一族に厳しく問いかけたんだとか。



 この部分はフェラリーデさんに聞いたからどこまで本当かわからないけど、でも、病気のひとを見捨てるメルバさんじゃないから、真摯に薬の開発に向き合ったんだと思う。



 それで開発された薬は、薬といっても特効薬ではなくてあくまで病気の進行を抑えるものが出来たそうだ。

 それでも死亡の確率がぐんと減ったと大歓迎され、「薬と言えば深緑の森の一族」とまで言われるようになったとか。



 すごいよねえ。薬を開発しちゃうなんて。

 でも、一定の期間しか流行らない病気のためか、この薬の認知度は低くて、ルシェモモ以外では未だ呪いの印象の方が強いのだとか。



 呪いだなんてと聞いた時は思ったけど、この家の異常な静けさを感じた今では理解できる気がする。

 まるでお通夜みたいだ。この家のひとは黄の一族の長が死ぬと思ってるんだろうか。



 2週間程前、主の様子がおかしいことに気付いたアングスさんは、グレゴリーさんに名高い深緑の森の一族に見せて欲しいと頼んだそうだ。

 そして、グレゴリーさんは中央地区で評判の3つで診療所を開いている深緑の森の一族に黄の一族の長を見てもらうよう手配した。



 でも、ここからが問題で「こんな病気は初めて見た。」とか、「恐ろしい病だ。」とか口ぐちに不吉なことを言われ、現状では手だてが無いと診断して帰ったのだそうだ。



 私はメルバさんやフェラリーデさん達を見ているから、その話の深緑の森の一族には違和感しか憶えない。

 でも、グレゴリーさんもアングスさんも深緑の森の一族の高名さは知っていて、その彼らが言うことだからと信じたのだそうだ。



 それで、薬がないならせめて身体に良い食べ物をと、アングスさんはスタグノ族では滅多に食べないセパに目を付けた。

 ルシェモモではセパを育てて調理すると昔聞きかじったらしく、どうか譲ってほしいと頼んだけど断られ、思い余って盗もうとしたがネロに撃退されて気を失ってしまったそうだ。



 気がつくと病室で寝かされていて、自分のしたことが恐ろしくなって逃げ出したのだそうだ。

 逃げた彼を追わなかったのはメルバさんの指示らしいけど…。何で追わなかったのかは教えてもらえなかった。



 これがメルバさん達から聞いた話とアングスさんの話を合わせたネロ誘拐未遂事件の顛末だ。

 まあとにかく、これで事情がわかった。



 簡単に話しながらもアングスさんの誘導は続いている。

 いったいどこまでいくんだろう?



 元いた部屋とは反対方向に数部屋分の距離を進んでやっと止まる。

 …話の流れからして、この部屋はたぶん。



「お願いでございます。長にお目にかかって頂けませんでしょうか?」



 予想通り。でも、長ってお休みになってたんじゃなかったっけ?

 面会しても大丈夫なんだろうか。

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