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「ようこそおいで下さいました。」
恭しく上体を傾ける黄色い姿にのけぞりそうになる。何とかこらえたけど。
ぬめりとした光沢のある表皮がどうにも気持ち悪い。
キィさんやキーファさんは綺麗だなと思ったのに、何でだろう?
体色は黒っぽい黄土色で、細身の尻尾が見えるけど、尻尾もぬめりとした光沢を放っている。
顔は…なんだっけ。キィさんやキーファさんとも違う感じだから、カエルっぽいわけじゃない。
あれに似てる。え~と、そう、昔見たイモリとかサンショウウオとかだ。
スタグノ族は水が無いと生きられないと聞いてるから、おそらく両生類系の種族なんだろう。
目の前の男性は体格がいいからサンショウウオの方がイメージ近いなあ。
小さな顔に少し突き出た丸い黒い目がニイっと細められる。
ううっ。気持ち悪い。でも我慢しなきゃ。笑顔。笑顔。
「私、当代の叔父にあたりますグレゴリーと申します。当代はお体が弱く、今日も臥せっておりますので、私がお二方のお相手を務めさせて頂きます。」
叔父さんかあ。当代は今の長さんのことだ。
今の長はとても身体が弱いと聞いてる。きっとこの叔父さんが変わりに取り仕切ってるんだよね。
「それは大変な時にお邪魔してしまいました。是非、黄の一族の長にお見舞いを。」
「お気遣いありがとうございます。ですが、先程眠られたばかりでして。トカゲの一族の次代様のお心遣い、当代にしかと伝えておきましょう。」
空気がピリリと引き締まっていくのを感じる。
何でだろう。形式的なやりとりのはずなのに、クルビスさんとグレゴリーさんの間に火花が散ってるのが見える。
でも、それを顔に出すわけにはいかない。
フェラリーデさんに言われて練習したんだから。
「長の伴侶たるもの、いついかなる時も笑顔で優雅に振る舞うべし。」
緊張した空気にあてられて硬直した顔の力をそっと抜き、歯をきちんと噛みあわせて、自然な笑顔になるようにする。
顔が強張るときは歯が浮いてしまっているか、逆に噛みしめてしまっているかのどちらかで、かみ合わせを意識すると自然な表情になるのだそうだ。
「では、こちらへどうぞ。」
グレゴリーさんが案内のために背を向けると気持ち悪い感じから解放される。
そこでわかった。気持ち悪かったのは視線だ。
ひとを品定めするような視線で眺めまわしてた。
顔も声も魔素だって歓迎を表していたのに、目だけが違ってた。
そのバランスの悪さがとても気持ち悪かったんだ。
グレゴリーさんはどうも良いひとじゃなさそうだ。
話す時は気をつけよう。
付け込まれたりしたらとても面倒なことになる。




