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ざわっ
仕度をしてクルビスさんと一緒に降りていくと、視線が一斉にこちらに向いた。
たぶん、私の髪を見てるんだろう。さっきまでは布を巻いていたから、私が本当に黒髪かわからなかっただろうし。
私の黒一色の髪はこちらでは大変珍しい色で、場合によっては危険なため普段は隠している。
幸い、アフリカのカンガのように頭に布を巻くのが流行っていたので、最近は部屋を出るときはずっと布を巻いたままだ。
今回は私の事情を知っている方たちの前に出るので、布はとって髪を降ろすことにした。
公の場で初めて髪を出したんだけど、完全に珍獣扱いだ。
これからこういう視線は当たり前になるんだよね。慣れていかなきゃ。
こっちには黒一色の髪のひとなんていないんだし。
今日着てるのは、前に買い物に出た時に買ったトモミさんの黄色いふわりとしたラインの服だ。
セパレートタイプで、上はたっぷりと布を使ってふんわり仕上げ、スカートはタックギャザースカートになっていて歩くたびに裾がふわふわ揺れる。
腰は帯の代わりにトモミさんのお祖父さんのミネオさんが作った銀のレースで飾ってる。
ミネオさんも今日はここにいるはずだ。メルバさんがあー兄ちゃんを知ってる世代を集めてくれたらしい。
「わ~。ハルカちゃんかわいいね~。クルビス君もカッコいい~。」
妙に緊張感のある中、メルバさんが両手を広げて迎えてくれる。
メルバさんは着替えていて、麻のワンピースに濃い緑のローブを羽織り、サークレットまでつけてどこから見てもエルフの長だ。
元の顔立ちがいいから、ちゃんとした格好をしたらすごく映えるんだよね。
普段エルフのひと達がメルバさんの恰好にあれこれ言う気持ちがすごくわかる。
「おおっ。かわいらしいのう。」
「まったく。アタルの妹とは思えんわい。」
「いやいや。めでたい。」
メルバさんに続いて、長老さん達が次々に声をかけてくれる。
それが歓迎会の始まりの合図になった。
何処からともなく音楽が流れだし、緊張をはらんでいた空気が緩む。
メルバさんに促されて、部屋の中央に行くと、いろんなひとが声をかけてくれる。
「歓迎いたします。」
「いつでも我が里へ来て下さい。」
「ご婚約おめでとうございます。」
「…ありがとうございます。」
髪に視線がいってしまうけど、どれも好意的な言葉と視線ばかりだ。
よかった。ヒト嫌いのエルフもいるって聞いてたのに、本当にあー兄ちゃんの妹ってだけで歓迎してもらえたんだ。
(あー兄ちゃん。里のひとたちに慕われてたんだね。兄ちゃんのおかげで、エルフの里に受け入れられたよ。ありがと。)
心の中で兄に感謝しつつ、次々にかけられる歓迎の言葉にお礼を述べていった。