8
長いです。1900字程。
「後はこれが「きな粉」になるかだな。」
ルドさんがバットに広げた炒った成熟豆を見る。
これは、私が途中で炒るのを止めてたやつで、芋アメを作っている間にルドさんが代わりに炒ってくれていたやつだ。
本来は一晩水に浸して蒸して使うものみたいだけど、炒るのは結構早くできた。
ルドさんもこんなに早く火が通るとは思ってなかったらしくて驚いていた。
「そうですね。もう粗熱も取れたみたいですし、粉にしてみましょうか。」
バットを受けとり、派手豆と同じく粉にするために石臼に入れていく。
そう。石臼。…もうわかるよね?
エルフが持ち込んだ物で、元ネタはあー兄ちゃん。
これは直径20cmくらいの小型サイズだけど、かなり大きなものもあるそうだ。
派手豆を粉にする時にルドさんが戸棚から取り出してくれたんだけど、それが石臼だったのには驚いた。
博物館とかで展示品を見たことはあったけど、実用品を見るのは初めてだったし。
粉にするにはこれ以上ないくらい便利だけど…。
あー兄ちゃん、何で石臼の構造とか知ってたんだろう?
現代の若者なら知らないでしょうに。
ホント、無駄にいろいろ知ってるからなあ。
コーヒーミルのようなもので荒く砕いて、それを石臼に入れていく。
石臼は重いのでここはルドさんにお任せだ。
ごりゅごりゅごりゅっと石臼を動かしていくと粉になった成熟豆が出てくる。
未成熟が鮮やかな青色だったから、黒に近い成熟豆は紺色の粉にでもなるのかと思ったら、ビリジアンより青緑っぽい色の粉が出て来た。
「あれ?緑色ですね?」
「熟すと濃い青みがかった緑になるんですよ。トフも緑色でしたでしょう?気に入られたと聞きました。」
私の疑問にリリィさんが答えてくれる。トフ?って豆腐だったよね?
そういえば…エルフの里で薄い緑のトーフハンバーグ御馳走になったんだっけ。
いろんなことがあり過ぎてすっかり忘れてた。
トーフ作れるなら大豆もあったのにっ。何で思い出さなかったかなあ。
「トフ…ああっ。そうです。緑色でした。…そうでした。トフの材料にもなるんでしたねえ。すっかり忘れてました。トフの色が淡かったので、豆も淡い色だと思ってましたし。」
緑がかった白って感じだったもんな。
この粉を見る限り、どぎつい豆腐になりそうなんだけど…。
「水を含ませると膨らんで色が淡くなりますよ。水の白が混じるんです。トフにするには2晩は水につけておく必要がありますが。」
バッカスさんが私の疑問に答えてくれる。
こっちの水は白かったっけ。それと豆の色が混じって豆乳が緑がかった白になるんだ。
でも、味は水っぽくなんてなかったけどなあ?
異世界の食材はやっぱり謎だ。
「だから、淡い色になるんですね…。こちらの食材には驚かされるばかりです。」
「ハルカさんの故郷では違うんですか?」
「ええ。豆自体が少し黄色がかった白なので、トフも真っ白ですね。」
バッカスさんが私の言葉に興味を持ったのか、私の故郷の大豆について聞いてきた。
豆が白いというと、バッカスさんもリリィさんも驚いた顔をした。
「成る程な。それでそんなに戸惑っていたのか。…よし。全部粉になったぞ。」
手を止めたルドさんが納得したように言う。
あ。粉になったんですね。お疲れ様です。
石臼をどかせて、下に引いていた布を寄せて粉を集める。
香ばしいきな粉の匂いだ。ううっ。美味しそうっ。
「香りが…。」
「さっきより強くなりましたね。」
バッカスさんとリリィさんも興味深々で青緑の粉を見ている。
よし、早速砂糖を混ぜて味見だ。
「ん。きな粉です。できましたっ。」
「これが…成る程。香ばしい上にまろやかな甘みだ。これは水菓子に合うだろうな。」
「ゼリーには蜜をかけますけど、一緒にきな粉をかけると美味しいですよ。」
「合いそうですね。…たしか、冷蔵庫に朝のゼリーの残りが。ルドさん。」
「取ってこい。」
きな粉が完成し、ゼリーに合うことを話すとバッカスさんが隣の厨房にゼリーを取りに行った。
いいのかな。守備隊の食糧だよね?
すぐにバッカスさんが戻ってきて、手早く人数分に分けて蜜をかけていく。
そこにきな粉をふりかけると…葛きりだ。
「美味しいっ。美味しいですハルカ様。」
「これは、蜜のクセが抑えられて甘みが引き立つな。」
「香りがいいので、食欲を刺激します。いい組み合わせですね。」
おお。大好評。
良かった。上手くいって。
でも、一度覚えているレシピを書き出して、材料の特徴とか書いておかないとなあ。
今回、トフのハンバーグのことを思い出せば話は早かったのに、それが出来なくてずいぶん手間取った。
専用のノートを作った方がいいな。
フェラリーデさんにお願いしてみよう。




