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「ほらほら~。積もる話は後で後で~。とにかく会場に行こうよ~。」
「おお。そうですな。」
「そろそろ準備も終わっとるじゃろう。」
「そういえば、長。アニスが探しとりましたぞ。わしらはそれで探しに来たんじゃった。」
「アニスが〜?何だろね〜?」
まだまだ続くと思われた親戚のおじさんトークは、メルバさんの一言によってあっさりと終わった。
クルビスさんはすでに疲れたみたいだ。でも、今日はずっとこんな感じになると思うなあ。
歩き出したメルバさんについていくと、里の入口から続く道がゆるやかに左にカーブを描きだした。
入口で見たよりも奥の方に建物がたくさんあるみたいだ。
ただ、奥に行くほど木を避けて道が作られてるから道がくねくねしてるし、低い木が邪魔で建物の上の方しか見えないから、実際どれくらいの数の建物があるかはわからない。
そんな道を進んでいくと、一番奥にひと際大きな木とそれに並ぶくらいの大きな家が見えた。
その家だけ緑じゃなくて白っぽい色だったけど、壁を蔦のような植物が覆っていて森に溶け込む印象は同じだ。
半球状の建物が縦に伸びたような形で、伏せたマグカップか湯呑の形っていうのが近いかな。
守備隊もそうだったけど、こういう建物は3階以上あるんだよね。
「あそこが歓迎会の会場で、僕の家だよ~。先に部屋に案内するから、荷物置いてきちゃって~。」
「えっ?あれがメルバさんのお家なんですか?」
遠目だけど、どう見ても3階以上あるし、横幅も普通のドーム型の家の倍はあるみたいだ。
ひとりで住むには大き過ぎない?
「ほっほっ。驚かれましたかの?長の家は里で最も大きい建物ですからな。」
「『里のお客様は長が歓迎する』というのがしきたりでしてな。宿泊施設も兼ねとるんじゃ。」
「その上、長は発明家なものでの。研究所も兼ねとるからかなりの大きさになってしもうて。」
ああ。客室と研究室が必要だから大きなお家になったんですね。
そういえば、洗濯機や扇風機もメルバさんが開発したんだっけ。
元ネタがあー兄ちゃんでも、話を聞いただけで実物を作るのってものすごいことだと思う。
メルバさんってお医者さんとしても一流だし、天才タイプなんだろうな。
「あはは~。僕の部屋は一番上の階と地下だけだよ~。後はみんな客室や一族で集まれる大きなホールになってるから、家っていうより施設に近いんだよね~。」
長老さん達の話を聞いて、メルバさんが苦笑しながら補足してくれる。
エルフの長だもんね。長の家っていったら、そういう立ち位置になりそうだ。
そんな話をしながら進んでいくと、メルバさんの家の全体が見えるようになった。
メルバさんの家は一階に大きな跳ね上げ式のドアついていて、今はそれが大きく開かれている、
中の広そうな部屋にはたくさんのエルフや獣人がいた。
あれがメルバさんの言ってたホールで、中にいる獣人はエルフと一緒に住んでるフェラルド族の方かな。
フェラルド族は全身が毛で覆われているタイプの獣人の種族で、たれ耳のイヌの一族と鋭い牙を持つオオカミの一族と尖った耳が素敵なキツネの一族がいる。
どの一族も数が少なくて種族全体で子育てをしているけど、健脚で伝令役として重宝されるため、大人は各地に出稼ぎに行ってるらしい。
守備隊にも何人かいるみたい。
昔は種族だけで村を作って生活していたけど、伝令役として重宝されるようになったせいで働き盛りの大人がいなくなり、村に子供とお年寄りだけになってしまって非常に困ったそうだ。
そこで、当時、里を広げようとしていたエルフたちと協定を組んで、お年寄りと子供を預かることになったんだって。
お年寄りには薬草の栽培や運搬などを手伝ってもらい、子供たちには出稼ぎに必要な語学と魔素の訓練を叩き込む代わりに、大人たちには医者として各地に派遣されるエルフたちをサポートしてもらうようになったそうだ。
以来、エルフの里といっても、3割ほどは獣人の暮らす村になっている。
今回、エルフが私の味方につくことになって、このフェラルド族の方たちも味方になってくれることになった。
エルフの事情やあー兄ちゃんの武勇伝をフェラルド族も聞いているらしく、私の存在は好意的に受け取められたそうだ。
一応、メルバさんにフェラルド族の方たちに説明してもいいかと聞かれたけど、味方が増えるのはありがたいことなので、即、承諾した。
一緒に住んでるなら隠すにも限界があるしね。
それくらいなら、いっそ堂々としていた方がいい。
「あ。いらしたぞっ。」
若い男性のエルフが声をあげると、皆さんが一斉にこちらを見た。
うっ。輝く美形たちが笑顔で待ち構えてる。…あれに混ざるのやだなあ。
フェラルド族…。「日進月歩~」のクルビスさん視点の話で、最初の方で出てきて以来ですね。
やっと、ちゃんと説明出来ました。




