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ガルンパさんのことも決まったし、他のひとも同じような対応でいけると思う。
今日は出席者が多かったせいか、一人一人と話す時間は少なかった。
だから、あからさまな態度を取ったひとじゃない限り、現状で強く警戒する必要はないんじゃないかと思ってる。何せ式の前だ。
何かしてくるなら、式の後で個別に接触してくるだろう。
他に特に印象の強かったひとも他にいないし…いや、いたわ。
ヒョウ柄模様の彼女。名乗らなかったから名前覚えられなかったけど。
東の守備隊の副隊長さんだったよね?たしか。
すごく強いって紹介されたけど、それ以外の情報はなかった。他は上手く隠してるんだろうな。
クルビスさんは思いを寄せられている当事者になるから、彼女の素を見ている可能性が低そうだ。
だから、クルビスさんに聞いても彼女のことはそんなにわからないんじゃないかなあ、と思う。
彼女は模様といい、じゃらじゃらと飾りを付けたドレスアップといい、主張が激しいタイプに見えた。
話し方も好戦的。でも、あれは一種の目くらましで、実際の彼女は違うように感じた。
うん。彼女に関してはアニスさんやリリィさんといった女性に話を聞いた方がいい気がする。
場合によってはメラさんに聞こう。
じゃあ、今気になってるのはこれくらいかなあ。
そんなことを思っていると、視線を感じてクルビスさんを見る。
んん?何だか上機嫌だ。
「…ご機嫌ですね?」
「ああ。こうして一緒に一族のことを考えられるのが、何だか夢のようだ。」
たしかに、こういう話をするのは初めてだ。
今までは、何かあっても詳しく知らされることもなく、待ってる状態だった。
でも、今日からは違う。共に歩んでいく伴侶だ。
クルビスさんの所属するトカゲの一族に認められたから、大手を振って伴侶だって言える。
役所に婚姻関係の書類を提出するのはドラゴンの一族にお披露目してからだけど、あちらはルシェリードさんが私の後見なので障害はない。
だから、今日のお披露目が無事に終わったということは、公にも私はクルビスさんの伴侶だと認められたということだ。
こちらでの結婚式はたくさんのひとへのお知らせって意味合いが強い。
実質の婚姻はお互いの一族に認められた時点で成立する。
だから、クルビスさんが嬉しそうなのもわかるんだけど…いつの間に腕の中に閉じ込められたんだろう?
そして頭に感じる感触は、すり寄られてる?
「ハルカ。」
「はい?」
「…ありがとう。」
沢山の気持ちを含んだ「ありがとう」だった。
私が故郷を捨てたことにも、こっちで生きていくって世界に宣誓したことにも、そして何よりクルビスさんの傍にいるって決めたことに対して。
クルビスさんは長い長い時間を孤独に過ごしていかなければならなかった。
もしかしたら『狂って』しまった可能性もあった。
だから出て来た言葉なんだと思う。
でもね?私だっていろいろもらってるんですよ?
あなたがいなかったら、異世界1日目で消えてた。森で出会った時もぎりぎりだったし。
街に連れて行ってもらって、寝るところも食べるものも用意してもらって。
後見だって、ホントはクルビスさんがやるつもりだったって、フェラリーデさんに聞いた。
苦しくてわんわん泣いてた時にはずっとそばにいてくれた。
今の肯定的な状況だって、クルビスさんがずっと私の味方だったから、幸せそうにしてたから周りが動いてくれただけだ。
生きる場所をもらったのは私。
「わたしこそ。ありがとうございます。…これからもよろしく。私の伴侶さま。」
クルビスさんにもたれかかって、ありのままの言葉を伝える。
返事の代わりにギュッと抱きしめられた。




