16
「彼女には伴侶がいた。俺と同じ戦士部隊の隊士で、濃い紫の単色のヘビの一族。優秀でおおらかで、次の隊長は彼だと誰もが思っていた。」
この話し方、ちょっと重い話かもしれない。
クルビスさんの話を聞きながら内心で覚悟する。
私から聞いたんだから、やっぱり聞きたくないってわけにはいかない。
どんな重い結末でも最後まで聞かなきゃ。
「ある時、狩りに出たまま帰ってこない者がいると報告を受けた。ドラゴンがいるからそこまで危険な獣はいないが、万一の事もある。それに山の中で動けなくなっている場合もあったから、複数の班で手分けして捜索を始めた…。」
遭難者か。狩りって私が最初にこの世界に出た場所のさらに奥の方でやるはずだ。
ルシン君を見つけた崖でメルバさんがそう言ってた。普段は来ない場所だって。
この辺りでは、狩りは基本的に免許を持った専門のひと達でやることになってる。
危険を回避するために集団で行くことが多いらしいけど、クルビスさんの話に出てくる遭難者はどうも単独で狩りをしていたようだ。
狩り場の浅い部分までならよくあることらしく、最初はクルビスさん達もそう思って狩り場の入口から浅い所までを探したらしい。
でも、中々見つからない。知らずに奥までいったのかと捜索範囲を広げると、ルシェリードさんと座って話したあの少し開けた場所で魔素の暴走が起きた。
辺りの木をなぎ倒す勢いで魔素が暴れ、その地点にいち早く到達したのがコールさんの伴侶さんの班。
その時クルビスさんの班は一番遠い地点にいたらしく、たどり着いた時にはすでに事態は収束していたそうだ。
あのちょっと広くて見通しの良い場所が事件現場だなんて…。
ぽっかり空いた空間が暴走の凄まじさを示している。
場所を知っているだけに、事件の大きさがわかってしまい背筋が寒くなった。
「暴走した者は気を失い、その場にいた隊士たちは弾き飛ばされて気を失ったり、大けがを負っていた。慌てて治療をしたが、コールの伴侶は打ち所が悪かったらしく魔素が扱えなくなっていた。」
魔素が扱えない…それって、ここで生きていくのにはすごく不利なことだ。
日常生活もまともに送れないだろう。
電気やエアコンなんかですら、魔素を流してスイッチをいれるようになっているからだ。
私の部屋は医務局の病室だから、魔素の不安定な患者さんでも使えるように押すタイプのスイッチになってるけど、それは例外で一般的な建物には当てはまらない。
魔素が使えないなら探査や遠見なんかの能力も使えないから、戦士としての活躍の場はかなり狭まるだろう。
強い個体だと聞いたから、受けたショックは並みじゃないはずだ。
え。じゃあ、考えたくないけど、コールさんの伴侶さんってもしかして…。




