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「そういえば、今日は新作のスイーツのお披露目もあるとか。」
「おお。私も聞きましたぞ。なんでも斬新な菓子だとか。」
ギリンジャーさんとボウスさんが楽しそうに話している。
新作スイーツを今日お披露目するって何で知ってるんだろう。
昨日急に決まったはずなんだけど…。
アルフレッドさんかな?ウキウキしてたし。
「楽しみですなあ。」
「いやまったく。」
そんな話をしていたら、新しい皿が運ばれてきた。
フタがしてあって中身が見えないけど、ウジャータさんが中央に出てきているから間違いないだろう。
「皆さま。今日は新作のスイーツを味わっていただきたいと思いますの。今からお配りしますので、是非召し上がって下さいな。夏にぴったりなお菓子ですのよ。」
ウジャータさんの演説とともに招待客にお皿にのった葛餅が配られる。
数を用意するのが大変だったけど、ピンクと紫の2種類を用意した。
「あら、可愛らしいこと。」
「ほんと。綺麗ねえ。」
「ふむ。変わった形ですな。」
「周りのこれは…ゼリーでしょうか?」
お皿を受け取った皆さんの反応はそう悪くないものだった。
不思議そうだけど、見た目はオッケーだったみたいだ。
「さあさあ。皆さん、まずはひと口。お食べになればわかりますわ。」
ウジャータさんの催促に、皆さん恐る恐る小さなナイフで切れ目をいれて食べ始めた。
食べた途端に驚いて目を見開いたり、不思議そうに首を傾げたり様々な反応があったけど、私の周りでは顔をしかめたりしたひとはいなかった。
「なんというか。口どけがいい。」
「瑞々しいわ。」
「私はもうちょっと甘くてもいいわ。蜜は無いのかしら。」
「魔素もこの大きさの割に…ふむ。結構ありますな。」
「良いですねえ。見た目も水で包んでるようで。蜜をかけてもよさそうですな。」
良かった。結構ウケてる。
でも、ところどころで「蜜をかける」って聞こえるんだけど。トカゲの一族って意外と甘党?
「ウジャータ様。このお菓子は何というのですか?」
「ああ。これは『水菓子』だそうですわ。ねえ?ハルカさん。」
「おおっ。伴侶様が。」
「まあ。考えられましたの?」
うわっ。ここで一気に注目がきた。
でも、皆ほとんど食べ終わってる。目がキラキラしてるし、口にあったみたいだ。良かった。
ちなみに、葛餅の名前は見た目と元のお菓子から取って「水菓子」にした。
実家では葛を使ったお菓子をまとめて「葛餅」って呼んでたけど、本当は細かく分かれている。
今回作ったのは「葛まんじゅう」もしくは「水まんじゅう」と呼ばれるものだ。
だから、そこから「水みたいなお菓子」で「水菓子」。
単純?私にネーミングセンスを求めないで欲しい。
実家はマカロニだろうがペンネだろうがソースかけたらまとめて「パスタ」と呼ぶ家だ。ムリムリ。
「…故郷で作られていたお菓子を再現してみました。」
視線に緊張しながらも、何とかつっかえずに答える。
すると、また周りにヒトが集まってきた。新しいお菓子は十分に興味を引いたようだ。
「故郷というと、北の方ですわよね?」
「ええ。寒い時期が長くて、水が氷ることもあります。」
「ほお。そんなに。では環境がずいぶん違うのですな。」
「はい。ですから、材料を探すのにウジャータさん達にご協力願いました。」
寒さに関してはイマイチ理解されてないみたいだけど、環境が違うのはわかってもらえたみたいだ。
材料探しに関しては、ルドさんの名前を出すと守備隊に迷惑がかかる恐れがあるので、ウジャータさんの名前を全面に出させてもらうことになっている。
実際、それで納得してくれたらしく、後は餡子の味や見た目が良いと言った好意的な感想をもらった。
ちょっとびっくりしたのは「蜜をかけないのか?」という質問が多かったこと。
ゼリーをわらびもちみたいに食べるからだろうけど…餡子があるのにさらに甘いものをかけるのですか。そうですか。
トカゲの一族の味覚がわからなってきた。クルビスさん。目を逸らさないで下さい。
ちなみに、作者の実家も「葛饅頭」を「葛餅」と呼んでます。
通常、「葛餅」と呼ばれるものは「葛きり」と呼んでました。
最近になって気づきました。誤解を生んでたら申し訳ないです。
ただ、せっかくなので、この勘違いというか思い込みを作品に取り入れることにしました。
今後は誤解を生まないように気を付けたいと思います。




