雨季ー48
自分の思わぬクセに反省していると、キィさん達が戻ってきた。
手に持ってる小さい壺が例の塗料みたいだ。
「じゃあ、ちょっと行ってくる。上手くいきそうなら、中央に報告してくれ。」
「ああ。俺も行く。ハルカ、しばらくここにいてくれ。シード頼む。」
「はい。」
「あいよ。」
犯人たちの所に向かおうとしたキィさんを呼び止めて、クルビスさんも同行すると宣言。
え?ホントに?いえ、お仕事いってらっしゃーい。
キィさんも目を見開いてたから、クルビスさんが来るとは思っていなかったんだろう。
私も思わなかった。蜜月って離れられないんじゃないの?
それとも、それだけ危ない事態ってことだろうか。
それはそれで怖いなあ。
まあ、何にしろ、クルビスさんが不安にならないように大人しく待ってます。
だから、お仕事頑張って。
ニコニコと見送ると、ホッとした顔で少しさみしそうに尻尾を揺らしながらクルビスさんも奥に向かう。
姿が見えなくなった頃、シードさんが突っ伏してプルプル震えていた。笑ってるな。
「いやあ。まさか蜜月に離れるとはね。あいつの責任感には、ゴホンッ、おそれいったぜ。」
顔が笑ってますよ。シードさん。
まあ、私も同じこと思ったんだけどね。
きっと隊長さん達が揃わないといけないような事態なんだろう。テロリスト相手だしね。
だから、危険が無いように私を置いて行った。
護衛にシードさんもつけて。
職権乱用な気もするけど、近くにテロリストがいるのは危険なことだから、この状況を大人しく受け入れます。
「まったくだ。ほら。おかわり。」
あ。ルドさん。
シードさんに3杯目のお汁粉を差し出す。
きっと話がひと段落するのを待ってたんだろう。
ヘビの一族らしく、1杯目も2杯目もあっという間に平らげたシードさんは、3杯目も変わらぬスピードでお汁粉を食べる。
お汁粉ってあんなぐびぐび飲むものだっけ?
いや、ヘビの一族の食事については自分の常識は当てはまらないんだった。そうだった。
「んん。これ美味いな。食べやすいし、魔素も多い。疲れてる時は魔素補給もおっくうになるから、これくらい手軽に補給出来ると助かるぜ。これ、定番になるのか?」
「ああ。今回、効果が実証されたからな。作るのにも時間がかからないし、大量に作れて、保存が効く。中央にも報告することになるだろう。…いいだろうか?」
私に聞かなくてもいいですよ。
レシピ発案者の許可がいる?そうですか。どうぞどうぞ。
でも、大げさだなあ。
作りやすいっていうのには賛成だけど、中央に報告って。
「新しいレシピを加える場合、中央に報告の義務があるんだ。場合によっては、守備隊全体のメニューになるからな。かき氷も報告してある。だから、ルシェリード様が食べに来ただろう?」
ああ。メルバさんの話を聞いて食べに来たってやつ。
たしか、あれってストライキ起こしたネロを連れて来てくれた時に、ついでで食べたんじゃなかったっけ?
「本当に効果があるかどうか、魔素の多い者が派遣されて、魔素の補給率を測るんだよ。あの時はネロのことがついでだったな。」
シードさんがあの時の真実を教えてくれる。
そうだったんだ。まあ、自分の所のセパの子のことと、守備隊全体のメニューなら、守備隊全体の方がメインになるか。
でなきゃ、忙しいルシェリードさんが気軽に北に来るなんて出来ないよね。
あの後、今回のこと以外では北で会ったことなかったし。
成る程なあ。
じゃあ、次は汁粉を食べに来るんだろうか。
冷たいのと温かいのあるけど、どっちが好まれるんだろう。
ん?汁粉っていえば、何か忘れているような。…あ。
「ココナッツ汁粉っ。」
忘れてた。いや、ホントにすっかりと。
いつも余裕のあるルドさんも、あ、って顔をして口をカパっと開けていた。




