雨季ー32
「ふ~ん。成る程ねえ。地下と連絡が取れないからって、中央でも騒ぎになっててさ。北が地下に行くって聞いて、確認に来たんだけど…。問題の式はキィ君と僕も見に行った方がいいかもねえ~。」
事情を聞いたメルバさんが、今度はどうして北に来たのか説明してくれる。
キィさんも厳しい表情で頷いている。
問題になっている式は、私が思っているより厄介なことなのかもしれない。
帰還した隊士さん達が休憩に入ると、そのままメルバさんが転移しようとするのをクルビスさんが止める。
どうやら隊士さんを追加で派遣するようだ。
戦闘に向いた隊士さんはシードさんが連れて行ってしまったので、念のための措置らしい。
「もうちょっと連れていけるよ~?まだ相手向こうにいるんだよね~?連行するなら送るけど~。」
「いえ。術士部隊も幾つかは残っていますので。この数が加われば十分です。」
「成る程ね~。じゃあ、行こうか~。」
そう言ったが早いか、光る魔法陣が現れたと思ったら隊士さんたちまで広がって、あっという間に転移する。
誰かが「これが長の転移…。」ってつぶやいてたけど、他のひとも呆然とメルバさん達が消えた部分を見つめていた。
相変わらずの規格外っぷりだ。
7、8人くらいはいたよね?
「いつ見ても見事なものだ。」
ため息のようにクルビスさんが言う。
その魔素には安心を感じたので、メルバさんが行ってくれてホッとしたんだろう。
その後、手の空いてる隊士さんに牢屋の準備を命じていた。
牢屋があったんだ。知らなかった。
「牢屋なんてあったんですね。」
「ああ。普段は酔って暴れる相手を反省させるくらいにしか使わないものだけどな。たまにこうして必要になる。」
それは、今回みたいな犯罪者がたまになら出るってこと?
怖くてそれ以上突っ込めなかったけど、実際、牢屋があって活用されてるんだから、そういうことなんだろう。
平和な街だと思ってたんだけどなあ。
これは予想外だ。そういった街の現状も把握していかないと、思わぬことに巻き込まれそうだ。
「…怖いか?」
怖い?何を?
そりゃ身近でテロみたいな事件が起これば怖いけど、この質問は違うだろうなあ。
たぶん、私が牢屋に対して持ってる悪いイメージが伝わったんだろう。
私が争いごとには縁が無かったのはクルビスさんも知ってるし。
「大丈夫です。ちょっと驚いただけです。」
そう声をかけてみるけど、クルビスさんは心配そうな顔のままだ。
大丈夫ですから、心配しないで下さい。
というか、周りを威圧しないで下さい。
隊士さん達がちらちらとこっちを見てるでしょう。怯えてますよ。たぶん。
魔素も大きすぎるし。私のやることなすこと反応しすぎですよ。
過保護になるのも蜜月のうちなのかしら。困ったなあ。




