雨季ー12
メルバさんは2杯目のお汁粉もあっという間に平らげて、さらに3杯目をおかわりした。
そんなに食べて魔素酔いは大丈夫なのかなと思ったけど、メルバさんは「あ~美味しかった~。」と満足そうにお腹をさすっていた。大丈夫そうだ。
「餡子ってすごいね~。あーちゃんが再現したがってたわけだよ~。」
確か、エルフの元いた世界には小豆に似た豆がなかったんだよね。
それで、エルフに残るスイーツのレシピはどれも洋菓子ばかりで、どら焼きだって代わりにカスタードクリームを詰めた洋風どら焼きになってたくらいだ。
だから、メルバさんは話には聞いたことあっても、実際に汁粉なんかの餡子のスイーツを食べるのは私が来てからが初めてになる。
エルフは和風嗜好で甘味大好きだけど、メルバさんはその中でも群を抜いて甘党だから餡子のスイーツは口に合ったようだった。
「お口にあったようで良かったです。…あの、里からここまで転移されてきたんですか?」
「そう~。ちょっと魔素を使うけどね~。良く知ってる所なら出来るんだ~。僕ここの隊長やってたこともあるから、北なら来れるんだよ~。」
そういえば、メルバさんって医療部隊の隊長さんだったんだっけ。
ずいぶん昔のことみたいだけど、その関係で北地区はエルフが多いってアニスさんに教えてもらったなあ。
「さて~。魔素も回復したし~。ちょっと子供たち見て来るよ~。お汁粉のこと聞いたらしくて、大騒ぎしてるみたいだから~。」
え?子供たちもお汁粉のこと知ってるの?
病室は基本的に外の騒ぎや魔素に影響は受けにくいはずなのに。
「何だかね~?交代で今日のおやつが何か偵察してるみたいだよ~?」
階段の方をちらりと見て、メルバさんが意味ありげに合う。
偵察ってそんな。…やりそうだなあ。
妙に行動力のある子たちが揃ってるから。
お祝いをしてくれた時だって、式の練習場所は教えてなかったのに部屋に中の様子をうかがってたしねえ。
「そうなんですか…。あの、子供たちにお汁粉を食べてもらっても大丈夫でしょうか?」
調理部隊はこれから帰ってくる隊士さん達の相手をしないといけないし、忙しくなるだろう。
緊急事態でお汁粉を作ってたから子供たち用におやつを作る時間なんてなかったし、お汁粉が代わりになってくれれば丁度いい。
でないと、下手したら子供たちのおやつの時間が大幅に遅れるってこともある。
そうなったら、小さな子は泣いちゃうだろうなあ。
でも、魔素の多い大人用の汁粉を子供たちに食べさせていいのかわからないから、お医者様の許可は貰わないとね。




