3
ビアンカさんがお皿を取ってくるのを待って、すでに用意されてたお茶菓子の隣に葛餅を詰めた箱を置く。
ちょっと特殊な加工のしてある箱で、フタと底に氷が詰めてある。これで葛餅の冷たさが保てるという訳だ。
「持ってきたわ。これくらいの大きさでいいかしら?」
「はい。十分です。」
ビアンカさんが持ってきたのは男性の手の平に乗る大きさで、こちらの『取り皿』としては平均的なものだった。
白と黒で半分に染め分けられてある。磁器っぽく見えるけど、どうやって2色にしてるんだろう?
私が大丈夫だと言うと、ビアンカさんは嬉しそうにお皿を配り始めた。
尻尾がちょっと揺れてるのが可愛い。ウキウキしてるみたい。
意外なことに、トカゲの一族は浮かれたり感情が高ぶったりすると尻尾が揺れるらしい。
素人知識だけど、爬虫類の尻尾は身体のバランスを取るためとか、尻尾きりして逃げるためにあると思ってたから、聞いた時はかなり驚いた。
揺れると言ってもゆらゆらするだけだから、ネコみたいだなって思う。
これを知ったのは偶々(たまたま)で、葛餅を差し入れに行った時にクルビスさんの尻尾が揺れているのを見て、それをシードさんがからかったから。
守備隊の隊士さんたちは訓練を重ねてるので、無意識でもめったに揺れたりはしないものだから、おかしかったんだって。
ちなみに、ヘビの一族は揺れないそうだ。理由は尻尾が大きすぎるから。動かすには相応の訓練がいるんだって。
「じゃあ、開けましょうか?…あらあら。まあまあ。かわいらしいお菓子。」
「綺麗ねっ。ピンクと紫があるわ。味が違うのかしら?」
「ほお。これは涼しげなお菓子だね。」
準備が整ったので箱を空けると歓声が出た。
うん。つかみは上々。後は味だな。
「中は…。」
「まって。ハルカさん。当てるから。」
「え。あ。はい。」
説明しようとしたらビアンカさんからストップがかかった。当てるって素材をかな?
ルドさんもクルビスさんも苦笑しながら眺めている。どうやらいつものことらしい。
ビアンカさんとルドさんはピンクを、アルフレッドさんとウジャータさんは紫を取った。
葛餅は手土産なので、私とクルビスさんは用意されていたお菓子をいただくことにする。お菓子はシフォンケーキみたいなふわふわのケーキだった。花の蜜が添えられている。
異世界シフォンに蜜をかけていただくと、ふわりとした食感にかすかな花の香りがして、シンプルだけど飽きのこない味にフォークが進む。
私が異世界シフォンに舌鼓を打ってると、アルフレッドさんたちは目を見開いて固まっていた。
…あれ?お口に合わなかったかな?
ルドさんやクルビスさん達がオッケー出したからイケると思ったんだけど。
「…美味いっ。美味いぞおっっ。」
「…あらあらあらあら。まあまあまあまあ。ゼリーにこんな使い方があるだなんてっ。私ちっとも知りませんでしたわっ。でも、そうですわよね。ゼリーのあのシンプルなお味であれば、無限の可能性が…。」
「何これっ。何これっ?ちょっとルド兄様っ。兄様知ってたでしょっ?ずるいわっ。私も北に行くっ。」
歓声。感想。驚き…というより文句?
どれも一気にまくしたてられて、室内がいきなりにぎやかになる。
もう誰が何言ってるのかわかんないんだけど。
でも一つだけわかった。ルドさんが研究熱心なのは、間違いなくこの家族の一員だからだよね。




