婚姻の式(ルシン視点)
2000字程。
式に向けての途中くらいから婚姻の式の最後までの話です。
いつか僕にも伴侶が出来るのかな?
「お前は銀のドラゴンだからねえ。」お母さんが昔そう言ってため息をついていた。
ドラゴンは自分の魔素で治療の魔素を跳ね返してしまいやすい上に、僕の銀の魔素は特別で、合う魔素と合わない魔素がはっきり分かれる。
だから、お父さんもお母さんもぼくの治療を出来る術士さんを必死になって探してくれた。
それでも、完全に合う魔素の術士さんには出会えていない。
そんな僕に見つかるのかな?
「見つかるよ。クルビス隊長だって見つけたんだ。大丈夫さ。」
そう言って一番上のアルス兄さんが頭を撫でてくれる。
クルビス隊長は街で一番有名な隊長さんだ。
街で、ううん、世界で唯一の黒の単色の戦士で、さらにルシェリード様の孫で、メラ隊長の子供。
職務にも熱心で、冷静で公平な方だとウワサで聞いていた。
でも、僕が見たクルビス隊長はそんな感じじゃなかったけどなあ。
ハルカお姉さんにメロメロだった。伴侶なら仕方ないけど。
僕にとってあの2つは特別だ。
崖の下で動けなくなっていた僕を救ってくれた。
深緑の森の長さまいたからというのもあるけど、あの2つがいなかったら、きっと僕は飛べなくなっていただろう。
黒の魔素は「調和」を意味して、あらゆる魔素と合わせることが出来るんだって、後から教えてもらった。
兄さんたちにはとても心配をかけてしまったけど、僕を完全に治療出来る術士と魔素の持ち主が見つかったことをとても喜んでくれた。
魔素の持ち主と術士さんを別でいるかもなんて考えもしなかったけど、これなら僕も守備隊の隊士になれるかもしれない。
諦めていた夢がかなうかもしれないなんて、あの2つのおかげだ。
婚姻の式が2か月後って聞いた時は皆が驚いた。
こんなに早い式は隊長クラスではありえないと兄さんたちも近所のおじさんおばさん達もウワサしてる。
クルビス隊長はドラゴンの血が濃いから、この早い婚姻もそのせいだろうって個立ちは皆言ってるけど、僕にはその気持ちがわかる。
伴侶を自分の手元に抱え込みたいなんて、ドラゴンでは当たり前だから。
でも、街の友達に言うと「やっぱお前はドラゴンだよな。」って言われる。
皆は伴侶と離れて大丈夫なの?
僕にはその方が不思議だ。
「ルシン。お前にクルビス隊長とハルカ様から裾持ちをして欲しいと依頼があったよ。」
ある日、アルス兄さんがびっくりするような話を夕食を取ながら教えてくれた。
ハルカお姉さんのドレスは故郷のデザインで、裾がとても長いものなのだそうだ。
だから、裾を持ってくれるひとを探しているけど、あの2つは黒の単色だから隊士さん以外で長い時間傍にいても大丈夫なひとがなかなかいないらしい。
それで、深緑の森の長様が僕なら大丈夫だろうっておっしゃって下さったんだって。
クルビス隊長とハルカお姉さんのお祝いのお手伝いが出来るなんて!
僕はすぐに「やる!」と叫んでいた。兄さんは僕の答えがわかってたらしく、「父さんと母さんの許可をもらえるよう、僕からも言っとくよ。」と笑っていた。
そして、当日、街中から湧き上がるような歓喜の魔素に驚きながら、クルビス隊長とお姉さんに会うと、お姉さんの故郷のドレスにさらに驚き、でもとても綺麗だと思った。
クルビス隊長はお姉さんから離れたくないって魔素がダダ漏れで、ルシェリード様に笑われていたけど、気付いていなかったみたいだ。
きっとハルカお姉さんを見てたからだろうな。オスなら当然だけど、こんな状態で子供でも僕が裾を持つ程近づいて大丈夫かな。
聞いてみると、「ルシン、裾を持ってやってくれるか?」とお願いされた。
僕はホッとして、裾をシワにならないように、術士のお姉さんに教わりながらそっと持った。
きっと、僕の仕事は2つの邪魔をしないように、式のお手伝いをすることだ。
そう思って2つの様子を見ながら裾を持ったり放したりしてると、術士のお姉さんのアニスさんとシード副隊長に「すごい。」って褒めてもらえた。
でも、クルビス隊長は今日は魔素を抑えてないから、わかりやすいんだけどなあ。
もう、「離したくない」って魔素をすごく感じる時は抱き上げる時だから、さっさと裾を放すことにしただけなんだけど。
そう言ったら、シード副隊長は大笑いしてたし、アニスお姉さんは成る程と笑って頷いていた。
でも、いいことばかりじゃなくて、ハルカお姉さんのドレスに驚きや嫌な魔素を感じることもあった。
白を多く身につけているのがどうにも納得できないみたいだ。
僕も最初は驚いたけど、でも、とても綺麗な白なのに。
学校でも色での差別はいけないって教わってるけど、今日見たお姉さんのドレスは本当に綺麗だと思ったんだ。
同じように感じるひともいるらしく、ドレスに対して良い魔素を向けるひと達もいたから、感じ方にも個体差があるみたいだ。
真っ白なドラゴンもいたし、白が綺麗だっていろんなひと達に伝わればいいのに。
それ以外は地区ごとに景色も反応も違って、普段見て回れない他の地区に僕はわくわくして見て回った。
クルビス隊長とハルカお姉さんの共鳴はどこでも好評で、僕も影響を受けて、疲れるどころか元気に最後まで回ることが出来てとても楽しかった。
守備隊の隊士になれば、お仕事で他の地区にも行けるんだよね。
職人じゃあ、あまり移動することはないから、やっぱり隊士になりたいな。
最後にクルビス隊長が我慢できずに守備隊に駆け込んだ時は、丸一日我慢出来たクルビス隊長をすごいと思った。
僕はあんな風になれるかな?鍛えれば出来るようになるかもしれない。うん。もっと訓練の量を増やそう。
怜龍さまからのリクエストでした。




