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案内されたのは入口からほど近い部屋だった。
中は花模様の織物が敷かれ、木製のテーブルに椅子やチェストまである。
どれも花が飾りに掘り込まれていて、エルフの里の家具を思い出す。
守備隊の収納家具メインのシンプルな部屋を見慣れていたので、こういう普通の木製の家具が並んでると面食らってしまう。
テーブルの奥のイスにはこげ茶のトカゲの男性とヘビの女性が座り、その後ろには水色のトカゲの男性が立っていた。
皆さん立ち上がって迎えてくれたけど、私は後ろに立っている水色のトカゲの男性に目が釘付けになって、納得していた。
トカゲの家長さまと一緒に私たちを待っていたのは、料理長のルドさんだった。
これで手土産を勧められた理由がわかった。成る程ねえ。身内なら好物も良く知ってる訳だ。
ルドさんに言いたいことはあったけど、今は挨拶が先だ。
目の前のこげ茶色のトカゲの男性が現トカゲの一族の家長アルフレッドさんで、その隣の女性が奥様だろう。
「おおっ。来たか。」
「家長。お招きありがとうございます。」
「まあまあっ。お久しぶりだわ。クルビスさま。そちらの方が伴侶さまね?」
「お久しぶりです。ウジャータさま。彼女が婚約者のハルカです。」
「初めまして。里見遥加と申します。どうぞ遥加と呼んで下さい。」
「まあまあ。ご丁寧に。アルフレッドの伴侶ウジャータと申します。ルドはご存知ですわね?2番目の息子ですの。」
ウジャータさんがルドさんのことを紹介してくれる。
現家長さまの息子だったんだ。2番目ってことはお兄さんがいるんだよね?そのひとはいないみたいだ。
そんなことを考えていると、ルドさんが前に出てきて胸に手を当てた。
ん?何でしょう?理由教えてもらえるのかな?
「黙ってて悪かったな。妹に口止めされてたんだ。」
「あら。だって、お兄様だけ家長の家族として先に挨拶だなんてずるいわ。家族を紹介するときは皆一緒でなきゃ。」
「そんなことを言ってたのか。ビアンカ。ルドは北の本部にいるんだから、別にいいだろうに。」
「だめよ。お父様。伴侶を得る報告と挨拶は家長のいる場でなきゃ。形式って大事なんだから。」
「あらあら。そういうことだったのね?確かに形式は大事ね。ビアンカ。
でも、場合を考えないと。ハルカさんが驚いてらっしゃるでしょう?
ごめんなさいね。ハルカさん。さぞ驚かれたでしょう?」
「まったくだ。娘のおかげですまなかったね。」
「いいえ。少し驚いただけですから。気にしてません。」
アルフレッドさんとウジャータさんの謝罪に慌てて平気だと告げる。
驚いたけど別に気にするほどじゃないし、ビアンカさんの言う通り形式だっていうならそれでいい。
話を聞いて、何でこうなったのかよくわかった。
でも、ビアンカさんの本音は『ずるい』の方だよね。きっと。
ビアンカさんって、何だか憎めないタイプだ。
黒い目が好奇心で一杯って感じでキラキラしてる。
あ。そうだ。手土産。
ここで渡そうか。
「そうだ。これ。故郷のお菓子を再現したものなんですが、よろしければ召し上がって下さい。」
「おおっ。これはわざわざありがとう。守備隊のかき氷のウワサは聞いているよ。一度食べてみたいと思っているんだ。」
「まあまあ。どんなお菓子かしら?さっそくいただきましょう。」
「私、取り皿を持ってくるわ。まだ開けちゃいやよ?」
お、思った以上に反応が返ってきた。
ご家族で甘いものがお好きなんだなあ。ルドさんに感謝だ。
 




