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「こ、ここが…。」
「ああ。ここが深緑の森の一族の里だ。」
異世界初日に選ばなかったポムの小道の脇道に入り、1時間ほど歩いた場所にエルフ…こちらでは深緑の森の一族と呼ばれる種族の里があった。
森の中に溶け込むように建てられた家々が並び、一部は木が家の中から生えているものもある。
自然と一体であることを好むのだと聞いていたけど、ここまでとは思わなかった。
ただ、心配したような木造の和風建築ではなかったからホッとした。心から。
家の形はルシェモモの街と同じで、半球のドーム型だった。
こっちは白じゃなくて緑色だけど。
独特の家の形の理由を来る途中でクルビスさんに聞いたら、この辺りでは雨が非常に多い『雨季』があるらしく、雨水がたまらないようにこの形になってるらしい。
異世界に来た当初は、何で建物が半球型で入口が車のバックドアみたいに跳ね上げるのかわからなかったけど、説明を聞いて納得した。
ここの雨季は、台風のような激しい風雨が数か月続くという非常に厄介なものらしく、入口を閉じれば水を通さない完全な半球になるのは、たたきつける風雨から逃れるためらしい。
不便な気もするけど、その時期に家にこもって過ごすから手工業が発達したらしく、今ではその時期に新しいアイデアを練って腕を磨き、雨季が終わると技術者の腕を競う大会が開かれるそうだ。
「あ~。いらっしゃい~。ようこそ~。我が一族の里へ~。」
興味津々でエルフの里を眺めていると、独特のテンポの声が頭上から降ってきた。
見上げてみると、ポムの木が途切れる里の入口のすぐ傍に大きな木があり、そこの木に金髪のエルフがセミみたいに張り付いていた。エルフの長のメルバさんだ。
「メルバさんっ。」
「長っ。どうなさったんですか?」
私とクルビスさんが驚いて声をかけると、シャカシャカと手足を動かしてメルバさんが木から降りてきた。
相変わらず輝く笑顔が目に毒な程の美形だ。行動がおかしいけど。
輝く金の髪、真っ青な青い瞳、抜けるような白い肌と長い耳、そして何より美形。
どのパーツをとっても、この男性がファンタジーの王道キャラクターエルフだと言っている。
…木に張り付いたりしなきゃ、完璧なエルフなんだけどなあ。
私の中では微妙に残念なエルフとして認識されている。
ホントに何してるんだろう。エルフの長だよね?
「いや~。この木の上にヒャクヤの巣が出来てね~。木に穴を掘って巣を作る鳥だから、木に影響がないか調べてたんだよ~。場合によっては枯れちゃうからね~。」
お医者さんなのは知ってたけど、木のお医者さんまでやってるんだ。
まあ、エルフらしいといえばエルフらしいかな?
メルバさん、お医者さんとして優秀だもんね。
きっとこの木も大丈夫だ。
「ヒャクヤの巣ですか。珍しいですね。」
「うん。最近多くてね~。ちょっと変だから、今度、うちの一族だけで先行調査する予定だよ~。終わったらディー君経由でクルビス君にも知らせるから~。
ま、それはいいとして、ハルカちゃん、クルビス君いらっしゃい~。歓迎するよ~。」
「ご招待いただきありがとうございます。メルバさん。」
「長。しばらくお世話になります。」
「うんうん。ゆっくりしてって~。僕の家に泊まってもらうからね~。案内するよ~。」
私とクルビスさんが胸に手を当てて礼の形を取ると、メルバさんは嬉しそうに頷いて、宿泊先に向かうために歩き始めた。
ついて行こうとすると、向こうから走ってくる3つの姿が見えた。髪の色は青に黄色に赤…信号?
「お~さ~っ。」
「そんなとこにおったのか~。こ~の、風船男が~。」
「あんた~。長だって~。忘れとりゃ~。せんか~。」
口ぐちに叫びながら走ってくるのは、かなりお年を召したおじいさん達だった。もちろんエルフだ。
元気なおじいさん達だなあ。
「ちっ。ジジイどもが早速嗅ぎつけたか~。ちょっと~。早すぎない~?」
メルバさんが舌打ちしながら、おじいさん達に文句を言う。
あれ?舌打ち?メルバさんが?…いやいや。気のせいだ。うん。
「ハルカ。あれが深緑の森の一族の長老たちだ。長の補佐をされている。…振り回されてるともいうけどな。」
クルビスさんがおじいさん達の説明をしてくれる。
最後に小さくつけたしたのって、周知の事実ってやつですか?
(あれが長老さん達かあ…。あの様子だと、苦労してるんだろうなあ。)
でも、ちょうど良かった。先にご挨拶出来そうだ。
私を里に招待して下さった方々だし、年齢の高いエルフはあー兄ちゃんを知ってるはずだから、お世話になったお礼も言える。
あ。こけた。…お年寄りをあんなに走らせていいのかなあ。