デートー15
でも、そんな心配も長くは続かなかった。
カイザーさんが挨拶に来てから、一言お祝いをと挨拶に来るひとが次から次へと来たからだ。
「おめでとうございます。うちの店のハンカチですが、お祝いにどうぞ。」
「私、ヘビの一族オマネと申します。本日はおめでとうございます。よろしければ、こちらのロコもお召し上がり下さい。うちの店の看板商品なのです。お渡し出来て良かった。」
皆さんこの辺りのお店の方らしく、挨拶がてら何かしら置いて行って下さる。
どうやらカイザーさんと挨拶してる間に取りに言ってたようだ。
魔素にはお祝いの空気しか感じないから、他意はなさそうだし、素直にお祝いの気持ちとして受け取っておこう。
身構えちゃったけど、カイザーさんも、お祝いを言いに来ただけだったのかもしれない。
「ありがとうございます。」
「ありがとう。」
両手を差し出して受け取ると、皆さん嬉しそうに帰っていく。中には、働きやすい店ですよと、勧誘もどきの言葉の混じったお祝いもあったけど、お祝いを言うのがメインみたいだったので、お礼だけ言って受け流しておいた。
さすがに私ひとりですべてのプレゼントを受け取ることは出来なかったので、クルビスさんと二人で受け取りながら、お祝いに来たひとたちにお礼を言って見送った。
「ハルカ。」
騒ぎが収まると、クルビスさんは手の中のものをテーブルに降ろすと腕を差し出してきた。
いや。何ですかその手は。戻りませんよ。
こんなに頂いちゃって、これから屋台にもう一度行こうって言ってるのに。
ね?行きましょ?プレゼント達はここに預けて。
「そうだな。そろそろ行こうか。」
そうそう。約束しましたもんね。
って、ちょっ、クルビスさんっ。
「何だ?」
いやいやいや。
あのですね?
「…何で抱っこされてるんでしょう?」
「もう番だからな。」
答えになってるような。なってないような。
もういいか。追及する気力もないよ。
今日何度も諦めたし、たぶん明日も諦めるんだろうなあ。
いや、ここは抵抗してみるべき?
あ、無理だ。
私を抱える腕に力が入って、がっちり抱えられちゃった。
「そうですか。じゃあ、行きましょうか。」
うん。夫婦になるって多少の妥協は必要だよね。
決して逃げられないって観念したわけじゃないから。
「おお。新婚さんはいいねえっ。」
「いやあ。フィルド隊長を思い出すよな!」
そういえば、北を回り始めてからお義父さまの名前を良く聞くようになったなあ。
北の隊長さんだったそうだから当たり前といえば当たり前なんだけど、どうもウワサの内容はクルビスさんと行動がそっくりってことみたいだ。
今も街の皆さんは私たちを見送りながら何かを思い出したように笑ってる。
もう。恥ずかしいなあ。クルビスさんのせいですからね?
「さあ、今度は何を食べようか?甘いものの方がいいか?」
はあ。クルビスさんはまったく気にしてないみたい。
むしろ私が大人しくされるがままで機嫌が良くなってるし。
何だかひとりで恥ずかしがってるのが馬鹿らしくなってきた。
じゃあ、せっかく旦那様が奥さんのリクエスト聞いてくれてるんだし、甘いものでもリクエストしよっかな。




