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「いつもながら、大きいお宅ですね…。」
「家長の家は北で1,2を争う商家だからな。おかげで迷わなくて済む。」
目の前の大きな建物を見上げてため息をつく。
1度来てるんだけど、前回は緊張しすぎて「おっきなお宅だなあ。」くらいにしか思わなかった。
でも、改めて見るとあきらかに他のお家と違うんだよね。
窓も入口も上下開閉式のバックドアの作りできっちり閉まるし、それ以外にも最新式の横に開くバックドアの入口があって出入りが容易だ。
こんな家は他では見たことがない。まあ、他の家をあまり見たことないんだけど。
それでも、この家がとてもお金をかけたものだということはわかる。
こっちの住宅の良し悪しはまず窓や入口などの開閉部を見てはかる。
雨季が長くて雨風が激しいのでその対策をしっかり行うにはお金がかかるのだ。
だから、以前守備隊の裏から出て森に向かった時、木製のドアの建物を結構見たんだけど、それはかなり安い家で雨季のたびに対策が必要になるらしい。
せめてもの対策として、入口は若干高めに作って短い階段を取り付けているそうだ。
店舗用のしっかりした建物でも一段は上げ底にしておくらしいけど、話を聞いてると洪水対策な気がして不安がつのる。
まあ、そういう事情を踏まえて見ても、トカゲの家長さまのお宅は最新式の立派な邸宅といえるだろう。
その邸宅に近寄って、クルビスさんが入口近くの壁を押す。すると、私の手の大きさくらいの壁がへっこんだ。
あれが呼び鈴だって聞いた時は驚いたなあ。
壁に埋め込み式とか…宅配の人が困りそうだなあ。
ほとんど待つことなく横に開閉するドアが開かれた。
顔を出してくれたのはトカゲの一族の女性だ。体色は鮮やかな赤に頭のてっぺんだけ緑色だ。
その配色がいちごのようで可愛いなあと思ってしまった。
腕も真っ赤で、白いワンピースに赤のコントラストが目にまぶしい。
「お久しぶりねクルビス。そちらが伴侶さまね?ようこそ。現家長の娘のビアンカよ。
歓迎するわ。さあ、入って入って。皆、首を長くして待っていたのよっ。」
ビアンカさんはソプラノのかわいらしい声で手招きしてくれる。
歓迎してくれてるようでホッとした。クルビスさんは何故かげんなりしているみたいだけど。
「お邪魔する。」
「お邪魔します。」
礼をしてからお宅の中に入る。こちらでは礼を取ってから家に足を踏み入れるのが通例だそうだ。
中に入ってからは、ジロジロと見回さない、勝手に動き回らない、などなど常識的にしてはいけないことがマナーだ。余計に覚えなおさなくていいから助かった。
中は前回と同じくひんやりと涼しい。魔素を調節して室温を下げてるんだそうだ。
通常は部屋の中だけで、入口近くまで冷やすのは設備が整ってるお金持ちだけらしい。
これだけ大きいお宅を隅々まで冷やすとなるとかなりの費用がかかるだろうなあ。
そんな下世話なことも考えつつ、ビアンカさんの後についていった。




