デートー9
思い付いたすき焼きの説明もしてみると、それは何故か気持ち悪がられた。
お肉を甘くするのが理解出来ないんだとか。
文化の違いと言えばそうなんだけど、これだけ和食の根付いてる地域ですき焼きが無いなんて、そっちの方が理解出来ない。
あー兄ちゃん、すき焼きは作らなかったのかな?
「深緑の森の一族は肉を好まないんだ。だから、お兄さんは作らなかったんじゃないか?」
「あ。そうなんですか。それならすき焼きは伝わってないですね。」
「そうなんだろうな。だから、里の料理も野菜が多かっただろう?」
そういえば。
エルフの里で出された和食でも、お豆腐とかお浸しとかきんぴらとかが多かったっけ。
お肉が苦手なら、あー兄ちゃんだってすき焼き作ったりしないよね。
でも、クルビスさんはどうだろう?
シーリード族ってお肉好きだし、良く食べてる。
辛いたれを絡ませたお肉料理もあるみたいだし、甘辛いのだっていけるんじゃないかな?
男のひとって甘辛味好きだし。
うん。一度作ってみよう。それでだめだったら諦めよう。
「じゃあ、今度作ってみるので、食べてみてくれます?」
小首を傾げて、おねだりしてみる。
食べたことないものを食べるのって抵抗あると思うけど、挑戦はしてほしい。
何といっても、私がすき焼きや甘辛の肉料理を食べたいんだから、旦那様にも慣れててもらいたい。
ちょっとずつ味に慣れさせるって手もあるしね。
「…。外でそれはやらないようにしてくれ。」
あれ?
すき焼き食べてってお願いって外でしちゃだめなの?
あ、甘いお肉の話題がダメだった?
でも、周りは相変わらず大騒ぎだし、皆聞いてないけどなあ。
ふたりで席についたら、ビドーさんは気を利かして席を外してくれたし。
他に聞いてそうなひとっていないけど?
「それじゃない。」
どれじゃない?
首を傾げていると、クルビスさんはため息をつく。
「はあ。帰ってから説明する。とりあえず食べよう。せっかくの魔素が逃げてしまう。」
「?…そうですね。せっかくのお気持ちですし、頂きましょうか。」
そういいつつ、手に取ったお皿には緑、赤、青、黒、白の5色の焼売が乗っていた。
これ、トカゲの一族の縁起物で、ベルさんにおすそ分けしてもらったやつだ。
「カカポか。きっと置いておいてくれたんだな。これは準備に手間がかかるから、夜まで残らないものなんだ。」
そうそうカカポ。1つ1つ味が違うから、食べる順番間違えると口の中がすごい味になるの。
クルビスさんが言うように、5つでセットなら用意出来る数だって限られてるはずなのに、私たちのために取っておいてくれたのかな?
確かこれはビドーさんと話してたおじさんがくれたんだっけ。
後でお礼を言いにいこうかな。
「じゃあ、余計に味わって食べないとですね。」
「ああ。…今度は順番は大丈夫か?」
あ。ちょっと笑いましたね?
間違えませんよ。ちゃんと覚えてます。
赤が甘くて、緑が辛い、青がちょっと酸っぱくて、黒が香ばしい、白はあっさりでしょ?
そこまで時間も経ってませんし、すごく驚いたから覚えちゃいましたよ。
「ええ。だから、白から頂きます。」
「そうか。じゃあ、ほら。」
いえ。ほらって何?
何でクルビスさんがカカポをつまんで私の口に入れようとしてるんです?
疑問で一杯になりながらも、聞こうとすると口に押し込まれるので黙って咀嚼する。
うん。白味魚のあっさりしたお味で美味しい。
次は黒かな?
…どうしてすでに口の前にスタンバイしてるんだろう。
「どうした?食べないのか?」
食べますよ?食べますけどね?
何だろう。クルビスさんって食べさせたがりなのかな?
ルシェリードさんもフィルドさんも奥さんに食べさせるまではしてなかったはずだし。
それがダメとは言わないけど、外でやるかどうかはきちんと決めておいた方がいいだろう。
後で話し合う項目にいれとこう。
あ。緑が来た。むぐむぐ。おいし~。




