64
「ハルカ。あそこから前に通った市場になる。今日も店が出てるな。」
クルビスさんが前を見ながら教えてくれる。
ああ。この市場、憶えてる憶えてる。
「たくさんお店がありますね。全部、食べ物屋さんですか?」
前に見た時は野菜なんかも売ってたけど、今日は食べ物屋さんだけなのかもしれない。
いい匂いがあたりに漂っている。
「いや。これほどの数はないはずなんだが。見ない店もあるな。」
クルビスさんも不思議そうだ。
見ない店ってことは今日だけの屋台ってこと?それっていいのかな?
「クルビスさま!食べていかれませんか!」
「何言ってんだい!あんな上等な服着てる時にたれのついたのなんて食べれないだろ!すみません。クルビスさま。」
「今日はここで店を出してるんですか。店が多いと思った。」
身体の大きな灰色の体色のおじさんが隣にいる萌黄色の体色のおばさんにしかられている。
クルビスさんはおふたりを知ってるようで、気さくに声をかける。
「ええ。今日は道に場所を作りますから、店は店で固めることにしたんです。」
「成る程。」
「遅くまでやるつもりですから、回られた後、よろしければ来て下さいな。サービスしますよ。」
「お。そりゃいい案だ。是非そうして下さい。ここの奴らみんなそう思ってますから。」
屋台のおばさんの案に隣のおじさんが乗る。
そういえば、戻った後に星街に行く予定はあったけど、食事のことは考えてなかった。
ジルさん達に食べ物を分けてもらったけど、魔素も普段より消費してるし、これだけ歩くと後でお腹が空きそうだ。
屋台からは香ばしいたれのいい匂いがしてるし、食欲をそそられる。焼き鳥みたいなやつかな?
いいなあ。焼き鳥みたいな屋台ものって長いこと食べてないんだよね。
クルビスさんにお願いしようと思ったら、私を見て目を細めたクルビスさんは「では、後で是非。」と返事をしていた。
「お待ちしてますよ!」
「ええ。飛び切り美味しいの用意してますね。」
「お願いします。」
クルビスさんと一緒に屋台デートも決まりだ。
楽しみだなあ。
ニコニコと手を振ると、おふたりとも目を細めて手を振り返してくれた。
ふふ。楽しみが増えた。
「ハルカは屋台が好きなのか?」
きっとジルさん達が分けてくれた食事のことを言ってるんだろう。
ウキウキしながら食べてたから。
「そうですね。屋台でしか食べられないものもあるので。」
「そうか。じゃあ、時々ふたりで食べに出よう。店だけじゃなくて。」
クルビスさんが思わぬ約束をくれる。
普段の時も屋台に連れてってくれるの?やった。
「はい!是非!」
街の食べ物はたいてい辛いって聞いてるけど、いろいろ食べてみたいんだよね。
さっきからいい匂いが辺りに漂ってるから、余計そう思う。




