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 しばらく噴水のショーを楽しむと、先に進むことにした。

 日が沈む前には大まかに回っておきたい。



 夜は夜で明かりはあるのだけれど、日本の夜ほど明るくは無い。

 ドレスを良く見てもらうのも目的の一つだから、なるべく明るいうちに歩かなきゃ。



 噴水からさらに南へ歩くと、食堂やカフェは減っていって、街の皆さんは小さな半球の建物の前にテーブルを出したり、階段状の観客席を作ったりしてゆったりくつろいでいる。

 この辺は西と似てるなあ。技術者の方が多いのかな?



「ここからが工房街だ。マルシェの工房もこの先にある。」



 私の疑問をくみ取って、クルビスさんが説明してくれる。

 そうだ。北は中央に近い程技術者が集まっていて、周囲に住宅街が広がってるんだっけ。



 フェラリーデさんやクルビスさんに教わっていたことを思い出す。

 たしか、北の森にエルフの里がある関係で、北側には薬草を扱う深緑の森の一族が多く住んでるんだよね。



 それで、南に行くほど、物をつくる工房が広がっていて、その途中で活版印刷の工房と本屋がある本屋街と魔技師の方が作る魔道具を扱っている星街が左右に広がっている。



 噴水から奥に行くほど、織物や染めの型を作る工房に染料の工房などの家庭内手工業の工房が増えていき、残り3分の1くらいからお針子さんの工房なんかを挟んで、スタグノ族の宝飾品店や花屋などがいちばん奥を陣取っているらしい。



 奥は中央地区に繋がっていて、中央に住んでるのは基本的にお金持ちだからだそうだ。

 だからか、北に居を構える一族の長のお宅も北地区ではたいてい南側にあった。



 星街の手前に大きいお宅を構える長が多かったなあ。

 黄の一族だけは、噴水に近くて静かな場所にお宅があった。



 こちらに越してきた当時、長だったグレゴリーさんのお兄さんが身体を壊しがちだったからだそうだ。

 そんな立地になってるから、この辺からスタグノ族の観客も増えていくはずだ。



「ハルカ様っ。クルビス様っ。おめでとうございます!」



 スタグノ族のことを思い返しながら手を振っていると、右側から凛とした女性の声が聞こえてきた。

 黄色い肌に青い瞳のスタグノ族の女性。



「ラズベリーさん!」



 黄の一族の当代の長であるオルファさんのお姉さんだ。

 長のお身内が一人で大丈夫なんだろうかと思っていたら、隣にいた黄色い体色のヘビの一族の男性がラズベリーさんの肩を抱き寄せた。



 もしかして、恋人?黄の一族でなくていいのかな?

 疑問が顔に出てしまったのか、私たちに知らせるためなのかラズベリーさんは恋人に寄り添ってにっこり微笑んでくれた。



「あいつ、「片思いだ。」つってたのに。いつの間に。」



 シードさんのつぶやきを補聴器が拾う。

 どうやら相手の方を知ってるみたいだ。



 シードさんの話し方からすると、最近になって思いが通じたんだろう。

 こないだまではオルファさんが大変で、恋愛どころじゃなかっただろうし。



 ようやく、自分のことも考えられるようになったんだ。

 よかった。ラズベリーさんもお幸せにね。



 あ。クルビスさんも。ほら。

 彼女たちも幸せになれるように共鳴するんですよ。



 私が手を振ると、しばらく驚いた顔をしていたラズベリーさんがハッとなって両手を振って答えてくれた。

 うんうん。隣の恋人さんとお幸せにね。私ラズベリーさんの味方だから。



 私たちのやり取りを見ていたからか、お祭り騒ぎの延長だからか、周囲からもラズベリーさん達に「おめでとう!」とか「幸せになれよ!」とか言って乾杯し始める。



 その場のノリもあるだろうけど、秘密の恋人だったろうふたりにはとても嬉しいことだったようだ。

 恋人さんはラズベリーさんを私のように抱き上げるし、ラズベリーさんは感極まったのか、大きな青い瞳に涙を浮かべて笑っていた。



 どうかこのまま幸せになりますように。

 スタグノ族にとって、異種族婚は難しいものだと知ってるけど、どうかこの二人は上手くいきますように。



「そうだな。幸せになって欲しい。」



 クルビスさんも頷いて、彼らに手を振っている。

 私も願いを込めるように、もう一度大きく手を振った。

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