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ドレスへの視線を感じつつ花の中を進んでいくと、まかれる花はどんどん増えていった。
前が見えにくくなっていく中、見覚えのある模様のトカゲの一族の女性が近づいて来るのが見える。
白っぽい地に黒いヒョウ柄、トカゲの一族でクルビスさんに熱い視線を注いでいた彼女だ。
名前は知らない。彼女だけは名乗らなかったから。たしか、副隊長さんだったはずだ。
「こちらです。見えますか?すごい花なので。」
「なんとか。さすが東だ。」
「地区中の花が集められましたから。今、隊士たちが花を抑えるように声をかけてまわってます。しばしお待ちください。伴侶様はこの香りで酔われたりしてませんか?」
「大丈夫です。ありがとうございます。」
さすがに今日は嫌味もないみたい。
視線はクルビスさんに向いてるけど。
彼女の礼服は白と黒のグラデーションの糸で刺繍されていた。
花の刺繍が詰襟とボタン、胸元にもあしらわれている。
クルビスさんもそうだけど、黒の布地に近い色の糸を使う場合は刺繍が豪華になるみたいだ。
華やかな彼女の雰囲気にはぴったりだ。
彼女の案内で進んでいく間に、振ってくる花の量が減って視界が良くなってきた。
前が見えるようになれば自分で歩けるから、クルビスさんに頼んで降ろしてもらう。
「まあ、お疲れではありませんか?」
「前が見えれば自分で歩けますので。」
「そうですか。では、この先にも隊士が数個立っていますので、何かあれば彼らに行って下さい。私は全体の指揮にもどります。」
これから、全体の指揮かあ。副隊長さんだもんね。
ギャリガ隊長さんは空からの警備の指揮を取ってるそうだし、地上は彼女の管轄なんだろう。
「ありがとう。気をつけて。」
「ありがとうございました。」
お礼を言うと、彼女は胸に手を当て、脇に下がって私たちを通してくれた。
その動作はカッコよくスマート。仕事の出来る女性って感じだ。
彼女には思う所もあるけれど、自分の仕事に誇りを持って真摯にこなしている姿はカッコイイと思う。
私も式の後は仕事を探さないといけないけど、彼女のように打ち込める仕事が見つかってくれるだろうか。
職場見学ってこっちにないのかなあ。
いろいろ見て回りたいんだよね。
東は花に関係した仕事が多そうだなあ。
皆、花籠を持ってるけど、あれだけの量が貸出ってこともないだろう。
ということは自前の花籠ということだ。
北や西ではそういう習慣は聞いたことないから、多分東地区だけなんだと思う。
振ってくる花は減ったけど、その分、周りにまくようになってみんなが花だらけだ。
花の東地区っていうのが良くわかる光景だと思った。




