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「ようこそ西へ。おめでとう。」
転移陣で西に移ると、ザドさんが出迎えてくれた。
今日は黒地に褐色の刺繍の入った式服だ。
体格がいいのも相まって、迫力が増している。
でも、流れてくる魔素はとても穏やかで喜びが伝わってくる。
「ありがとうございます。ザド隊長。今日はよろしくお願いします。」
「任せてくれ。西は隊士だけでなく、ヘビの一族の若者も見回りに出てくれているんだ。皆、何か手伝いたいと申し出てくれてな。」
「そりゃいいですね。中央では皆が道に寄ってきて、道がつぶれてしまいましたから。」
クルビスさんとザドさんのやり取りに、シードさんがホッとしたように言う。
それを聞いて、ザドさんは驚いたように目を見開いた。
「もうそんな騒ぎになっているのか。道沿いの隊士を増やすよう、通達しておこう。」
驚くよねえ。
隊士さん達も押さえつけようにも、住民の手をつかんだりは出来ないからとても苦労なさっていた。
コンサートとかで警備のひとが両手広げて、これ以上行かないように押し返してたりするけど、あれは返って魔素の接触による魔素酔いになる場合があるから、出来ないのだそうだ。
守備隊の隊士さんって街のひとより魔素が段違いで強いからそうなるんだけど、押し返せないとなるとどうやればいいんだろう。
「キィの使ったあれ、借りてくれば良かったな。」
同じことを思ったのか、シードさんがポツリと式の前にキィさんが使ってた道具のことを口にする。
確かに、接触がまずいなら、別の何かで遮ればいいんだもんね。
「だが、あれはメラ隊長が作ったものだから…、まだ完成してないようだし、誰でも使えるわけではないだろう。」
「キィ隊長というと、あれか?映像で見たが、道の周りに花が舞っていた…。メラ様が作られた道具だったんだな。」
ザドさんは式の映像を見ていたようだ。クルビスさんが簡単に風の道について説明する。
それを聞いて、ザドさんもクルビスさんと同じように「キィ隊長をわざわざ指名なさるなら、どの術士でもというわけにはいくまい。」と残念そうに言っていた。
これはキィさんがそれだけすごい術士さんだって証なんだけれど、中央で長たちの警備にあたっているキィさんはここにはいないし、風の道は作れない。
どうしたものかと皆で悩んでいると、不意にルシン君が声を上げた。
「…あの。子供を道の前に置いてあげたらどうでしょう。良く見えるでしょうし、個立ちしてるひとたちも無理しないんじゃないですか?」
子供を?それって危険じゃない?
あれ。皆さん、それは思い付かなかったって顔してる。え。ホントにやるの?




