11
でも、私の予想は見事に外れ、どこに行っても大歓声を受けた。
この分だと、耳栓代わりの補聴器は外せそうにないなあ。
歓迎されてるってことだからいいんだけどね。
でも、今日は街のひととの交流は無理かもしれない。
皆、歓声と共に、飲んで騒いでって感じだし。
隊長さんの結婚式って、本当にお祭り騒ぎなんだなあ。
飲食店は飲み会の会場と化してるし、道端でも各々が持ち込んだ簡易のイスに座って乾杯している。
丸い屋根に上ってそこで飲み食いしてるひともいるし、誰が組んだのか、簡易の階段状の木枠があって、そこに家族で座ってご馳走を食べたりもしている。
祝ってくれてるけど、後は各々好きにしてるようだ。カオスだなあ。
これ、もっと時間が経ったら脱ぎだすひととか出てくるんじゃないだろうか。
だからなのか、今はベールを付け直して、その上から花冠を被っているけど、非難するような視線も野次も飛んでこない。
「とにかくめでたい!」って感じだ。
あんなに心配したのに。
クルビスさんだって、メルバさんだって街のひとの反応を心配してくれてた。
『ベールのこと気にしすぎてたみたいです。』
『俺もここまでの騒ぎとは思わなかった。両親の時だって、ここまでじゃなかったはずだ。』
クルビスさんに耳打ちすると、クルビスさんも耳打ちしてくれる。
ホントは補聴器があるから必要ないのだけれど、私たちがくっ付いてると周りがおおいに盛り上がるため、途中からこうなった。
今も、私たちがふたりで話してるのを見て、周りで歓声と乾杯の声でさらに盛り上がっている。
恥ずかしいけれども嬉しいから、宴会場と化している道端に笑顔を振りまいて歩いている。
それにしても、メラさん達の時はここまでじゃなかったなんて。
ルシェリードさんの娘さんだし、隊長さん同士のお式なら、おおいに盛り上がったと思うんだけど。意外。
『俺の伴侶は見つからないと思われてたからな。』
疑問が顔に出ていたのか、クルビスさんがこっそり教えてくれる。
そうだった。クルビスさんは黒の単色だから、相手が見つからないだろうって言われてたんだ。
だから、いつ魔素を保てずに狂ってしまうのかって心配されてたって聞いている。
ううん。恐れられてたって言う方が近いだろう。
単色の暴走は、辺り一帯をふき飛ばしてしまう爆弾のようなものだそうだから。
もちろん、純粋なお祝いの気持ちもあると思うけど、それに加えて、クルビスさんが狂う可能性が限りなく減ったことに対する安堵が、この異常な程の盛り上がりを見せてる理由なんだろう。
『だが、見つかった。これでやっと俺のものだと知らしめられる。』
『ふみゃっ。』
納得してると、耳に甘いバリトンボイスで囁かれる。
ちょっと、変な声でちゃったじゃないですかっ。
何なの。この補聴器。無駄に性能が良すぎない?
色気を含ませた声まで伝えなくていいのに。
クルビスさんも、何がまあいいじゃないかですかっ。
今の変な声、絶対周りにも聞こえて…あれ?
街のひとたちが皆こっちを見てる。
この辺りだけ歓声も止まってしまって、静かなものだ。
『どうしたんでしょう?』
『驚いたんじゃないか?』
何を?あ。共鳴。
私が理由に気づいた瞬間、ドッと地面が揺れるような歓声が辺りを包んだ。




