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「ありがとうございます。おじい様、ルシン。それで、何故ここに?」
お礼と共に、クルビスさんが疑問をぶつける。
皆が知りたいことだ。ここにいるはずの無いルシェリードさんが何でいるんだろう?
「何。単なるルシンの付添いだ。それに、メラからあまりに素晴らしいドレスだと聞いたのでな。見惚れて失敗しないように事前に見に来たんだ。」
それだけ?
にしては詰め所の外が騒がしいような。
「外はもうたくさんの住民で埋まってますよ。場所取りでいさかいが始まってます。」
私が外を気にしているのに気づいたルシン君が、外の様子を教えてくれる。
早めに来たのに、外はもう一杯かあ。
ここから式場の入口までは隊士さんが道を作って仕切ってくれてるけれど、そんなに一杯いるとなると道まで街のひと達がなだれ込んできそうだ。
こっちにはロープで仕切るって習慣がないみたいだから、道の境界線も曖昧だろうし。
「それで、ルー君が付添いかあ~。ルシンだけじゃ危ないもんね~。」
メルバさんが納得したように頷き、クルビスさん達が顔をしかめている。
キィさん達と「隊士を他から回すか?」とか言ってるから、外の様子を聞いて警備の心配をしてるんだろう。
そんな時、階段の方から声をかけられた。
声のする方を見ると、以前お会いしたことのある隊士のガソンさんが階段の方から顔をのぞかせていた。
「御到着されましたか。本日はおめでとうございます。外は道が無くなるかもしれない程の騒ぎですよ。隊士の数が足りなくなるかもしれません。」
ガソンさんはドラゴンの一族の隊士さんで、北の守備隊では古株だ。
力が強い隊士さんは今回メイン会場の警護に回ってもらっている。
それにしても、外はすごい騒ぎみたいだ。
中央の誓い詰め所は2階に転移室があるから、私たちが到着したことは外には知られていない。
でも、これだけの面子が揃っていたら、魔素の大きさでバレそうだ。
今日の式は人気アイドルのコンサート並みの騒ぎになると思ってる。
しかも、結婚式っていうお祝いごとだから、街じゅうのひとが浮かれているだろう。
ガレンさんの言うように、式場の入口までの道を維持する隊士さんの数が足りないかもしれない。
「ああ。そうなるだろうと言って、メラから預かりものがある。キィランリース。」
ルシェリードさんはそう言って、キィさんに手の平に乗るくらいの楕円形の板を渡した。
何だろう。メラさんからキィさんにってことは、術式の関係のものだよね?
「これは…。風のトンネル。完成なさったんですね。」
「まだ調整の段階らしいがな。この騒ぎを見て、道が崩れる前に使うことにしたようだ。試作に付き合ったそなたなら使えると言っていた。メラは会場の入口で対の板を持って待機している。」
「成る程。了解しました。じゃあ、道を作ってきます。キーファ、来てくれ。」
ウインク一つして、キィさんとキーファさんが外に出ていく。
どうやるのか知らないけど、道が確保できそうなことにホッとする。
風のトンネルって言ってたけど、きっとファンタジーな方法なんだろう。
メラさんの気遣いに感謝しなくちゃ。後でちゃんとお礼言おう。




