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「おめでとうございます!」
「っ。おめでとうございます!」
部屋を出ると、隊士の皆さんが階段や廊下にたくさん並んでいた。
皆、口ぐちにお祝いの言葉を述べてくれる。
ただ、視線は白のベールや真珠にちらちらと向けられていた。
そこに嫌悪の視線はなかったけれど、驚いているのはとても良くわかる。
「すごい…。」
「見たことないドレスだな。」
「あれ、海の輝石だよな?白もあるのか。」
他のものにも驚いてたみたいだ。
まあ、どれも今までのルシェモモではありえなかったものばかりだ。
どれみても驚くだろう。
それなら、意外と白への反発も少なくて済むかもしれない。
「おおっ。やっぱり当日はひと際綺麗だなあ。おめでとうさん。」
転移室の方から、キィさんとキーファさんが歩いてくる。
今日はこのふたりも式場に行く。
雨季の前は暑さが増していく時だから、防御の術式に加えて暑さ調節の術式をあちこちで使わなければならないそうで、術士部隊は半分会場に行って、半分は所属地区に残って一日中お仕事だ。
隊長格のこのふたりは、式場の中を担当するため、儀礼用の隊服を着ている。
光沢のある黒地に自分の色の糸で刺繍が施されていて、専用に仕立てたのがひと目でわかる。
クルビスさんは黒地に黒の刺繍糸だから控えめだったけど、このふたりは黄緑と青緑の糸だから、とてもよく目立つ。
飾りボタンまでついてて、本当にかっこいい。
「ありがとうございます。おふたりも式服が素敵ですね。」
「ありがとさん。それだけ見事に着こなしてくれるなら、生地を用意したリッカも喜ぶ。おい、キーファ。何か言えよ。」
キィさんに声をかけられて、ハッとなったキーファさんがきちんと胸に手をあてて「本日はおめでとうございます。」とお祝いを言ってくれた。
キィさんは「かてえなあ。もっと砕けろよ。」と文句を言ってたけど、キーファさんらしい真面目な挨拶に私は笑って「ありがとうございます。」と答えた。
「素晴らしいお仕度ですね。お衣装もとてもよくお似合いです。そのベールはもしや…。」
キーファさんの視線もベールに向かってる。
でも、視線の向きを見ると、どうやら刺繍に注目しているようだ。
「この刺繍ですか?メルバさんがお祝いにと縫い取ってくれました。」
「すげえよなあ。こんな細かい式なんて、俺には無理だ。キーファは?」
「私もここまでのはちょっと…。刺繍自体の技術も必要なものですし。さすがとしか言いようがありません。」
メラさんが「これの価値がわかるのは術士だけだ。」って言ってたけど、このふたりも刺繍の方が気になってたみたいだ。
他の隊士さんも私のベールに施された刺繍に気づいたらしく、視線が一気に刺繍に集まる。
「それ、式の後で、もっとよく見せてもらってもいいか?ここにいないやつらにも見せときたい。」
真面目な顔でキィさんがお願いしてくる。
すごい刺繍だってわかってるつもりだったけど、このベール、私が思ってる以上にすごいのかも。
「いいですよ。しばらく、クルビスさんの部屋に置かせてもらう予定ですし。」
「ありがとな。よしっ。んじゃあ、会場に行くかあ。クルビスがそわそわして待ってるだろうしな。」
そわそわするクルビスさんかあ。
想像できないけど、かわいいかも。




