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子供たちが病室に戻った後、歩く練習を何度かして、裾さばきと首振りが一致するまでは何とかなった。
キィさんとフェラリーデさんは途中で抜けたけど、残ったメンバーが総出で細かくチェックしてくれたおかげだ。
「これだけ歩ければ、明日もいけるだろう。こけそうになったら、クルビスに支えてもらえばいい。」
メラさんがウインクしながらOKを出してくれる。
良かった。これで明日は何とかなりそうだ。
でも、念のため、寝る前も練習しておこう。
疲れたなあ。さすがにドレスはもう脱ぎたい。
「では、着替えましょうか?お疲れ様です。」
リリィさんがブーケを受け取ってくれて、手が少し楽になる。
ブーケは明日と同じ百合の花のブーケだ。
明日の方が豪華仕様だって聞いてるけれど、今日のも大きなユリがいくつも組み合わされていて、シンプルだけど豪華に見える。
これだけ何もかも白と黒で統一してたら、白に意味があるって思ってもらえるだろうか?
明日以後のことはまだわからないけど、不安は募る。
仲良くなった子供たちであの反応だ。初めて見た街のひと達はどう反応するだろう。
「大丈夫だ。こんなに綺麗なんだから、きっと皆見とれる。」
いえいえ。それはあなただけです。
そう思いつつも、クルビスさんのフォローが嬉しくて、にっこり笑って返事の代わりにする。
いつの間にか手を握られてたけど、安心できるのでそのまま握っててもらう。
ちょっとした仕草で私を安心させてくれるのなんて、クルビスさんくらいだ。これが番ってことなのかな?
そんなことを思いながら、ドレスを脱ぐために部屋を移動した。
もちろん、部屋の前までクルビスさんが付いてきましたとも。
離れたがらないんだよねえ。
フィルドさんと同じ状態になってるみたい。
「えっと、じゃあ、着替えますので、クルビスさんはお仕事に戻って下さい。」
「…ああ。」
「もうすぐでしょうけど、夕食は一緒に食べましょうね?」
「…ああ。」
どうしよう。会話が成立しない。
私にだけ穏やかな視線が注がれている。
私の言ったこと聞こえてたのかな?
お仕事さぼったら、一緒に寝ませんよ?
「っ。戻る。食事は医務室で?」
あ。正気に戻った。
良かった。さすがに魔素での発破は通じたみたい。
「はい。一緒に食べれそうですか?」
「ああ。粗方片付いたしな。西との連絡も取れたし、後は明日以降だ。」
明日の式は街中の隊士さんが警備にあたってくれるから、カメレオンの一族の詮議はまた日を改めてになるんだろう。
クルビスさんの説明にシードさんも頷いてる。
「残ってるのは今朝の分くらいなんだよ。頑張ったよなあ?明後日からの休暇のために。」
そう言って、にやにやしながらシードさんはクルビスさんを眺めている。
すると、バチっという音がして、音のする方にクルビスさんの尻尾とシードさんの尻尾があった。
「まあ、照れるなって。お前が食事の時間を覚えてるなんてなあ。」
「うるさい。」
そういって、またバチっと音を立てて尻尾がぶつかり合う。
これ、結構すごい衝撃だと思うんだけど、当人たちは涼しい顔だ。
じゃれ合ってるだけってことかな?
リリィさんの呆れた顔を見るとどうやら合ってるみたい。
メラさんもやれやれといった感じだから、きっといつものことなんだろう。
そうだ。今のうちに着替えに部屋に入っちゃえば、上手くクルビスさんを引き離せるよね。
そうと決まれば、アニスさーん。リリィさーん。
私はこっそりふたりを呼んで、思った通り上手くクルビスさんを引き離すことに成功した。




