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長めの2000字程。
奇妙な行進が気になったので、世界樹の案内はここまでにしてもらって下に降りることにする。
4階から上は大量に個室が並んでいるだけだって聞いたのも理由に入るかな。避難施設だもんね。
正直助かった。もう足が限界だったから。
下に降りるのは意外と楽だった。階段を上るのと下りるのでは使う筋肉が違う気がする。
「ぴぎっぶぎっ。」
入口の外に出るとネロの元気な声が聞こえてきた。
何だか一定のリズムで鳴いてるみたいだ。
周りには大人達が集まってきていて、入口の前からでは行進の様子は見えない。
「かわいい」とか「がんばれ」とか言ってるのが聞こえる。
「こっそり見に行きましょう。ネロが気付くと止めちゃうかもしれませんし。」
「そうだな。あの行進は見てみたい。」
「ミネオさんも。こっちです。」
口の前に人差し指を当ててクルビスさんとミネオさんを誘導する。
おふたりとも私がお願いした通りこっそりついてきてくれた。
ひとの少なそうな所を選んで覗き込むと、そこには上から見たように横一列で行進するネロとおチビさんたちがいた。
子供たちは2~3歳くらいの体格の子だけがやってるようだ。その数は4人。
ネロが鳴くたびに一歩前に出る。そのときなぜかお尻を一振り。ふりっ。
もう一度鳴くと、今度はもう一歩前に出てお尻を反対の方向に一振り。ふりっ。
ふりっ。ふりっ。ふりっふりっ。
ネロの少し尖ってきたけどまだまだ丸いお尻と、おむつでプックリふくれているおチビさんたちのお尻が右に左にと振られる。
どうやらネロの鳴き声は手拍子の代わりみたいだ。
ゆっくりと歩くので、ヨチヨチ歩きの子でもついて行ってる。
(……っっ。か、かわいい~。)
思わず悶えた。だって可愛いんだもん。
周りの大人も微笑ましそうに可笑しそうに笑っている。
クルビスさんも苦笑していたし。ミネオさんもこれには破顔するしかなかったようだ。
可愛いもんねえ。一生懸命なのがまた可愛さに拍車をかけてるし。
まだまだ続くかと思われた行進は、逆向きに振り向いたネロに見つかって終わりになった。
惜しい。もうちょっと見たかった。
残念に思っていると、そこで「お昼ですよ~。」と声がかかって、皆でメルバさんの家でお昼ご飯となる。どうも昼は皆の分をまとめて用意するようだ。
お昼は焼き魚にお味噌汁に野菜の煮物だった。
焼き魚は薄いピンク色に真ん丸なフォルムでカレイに似ていた。味はさんまだったけど。
添えられていたのはどぎついネオンイエローのすりおろし大根で、苦味が無くてさっぱりしていた。
お味噌汁の具は青い瓜っぽい野菜に薄揚げが入っていて、煮物は甘く煮た水色のかぼちゃだった。
こっちの食材って青い色が多いなあ。どぎつい色のも。
このカレイなんて薄いピンクだけど、隠れる気ゼロだよね?
相変わらず異世界の食材には謎が多いと、内心首を傾げながらも美味しくいただいた。
お昼の後は他の子供たちも交えて外で遊ぶことになった。
隊長さんふたりが大人気だ。
とりあえず、かけっこをすることになった。文字通り走り回るだけのやつ。
私はといえば、かけっこは30分と持たなかったので、走り回るクルビスさん達は置いといて、小さい子たちにだるまさん転んだやケンパなど、昔ながらの遊びを教えながらやった。
途中でミネオさんがあー兄ちゃんが作ったけん玉やコマなんかを持ってきて、それを見た長老さん達も参加し始めて、一気に遊び場が昔懐かしの遊びのオンパレードになった。
途中から、かけっこチームも参加してきて、みんなで夢中になってやった。
もちろん、誰よりも上手かったのはミネオさんや長老さんたちで、手の甲にコマを乗せたときは拍手喝采だった。
そんなこんなで、遊びつくしてたらあっという間に夕方に。
夕方といっても空の色は変わらないから、時間で確認するしかないんだけど。
帰りはフェラリーデさんがいるから転移の術式で簡単に帰れる。
まあ、私が酔う可能性もあったけど、訓練を続けてるなら大丈夫だろうと言われたので安心する。
子供たちには「また来てね。ネロもだよっ。」と可愛くしがみ付かれ、必死な姿に負けて次も来る約束をしてしまう。
この後の予定を考えると、次に来るのは式の後になるだろうから少し間が空くけど、それに関しては了承してもらえたのでホッとした。
「ふむ。それなら婚姻の祝いの宴もその時にしようかの。」
「そうじゃの。当日は手伝いで慌ただしそうじゃし。」
「うむうむ。やる暇がないじゃろうしな。」
話を聞いていた長老さん達が言い、その場にいた皆さんが同意なさったので、正式に式の後にもう一度訪れることになる。
これって新婚旅行だよね。今回の休暇でわかったけど、クルビスさんは隊長さんなので、守備隊から長期間遠くには行けないみたいだから丁度いいかも。
見送ってくれる皆さんに手をふりつつ、フェラリーデさんとネロを加えた3人と1匹で転送陣で無事に帰った。
ちなみに、アニスさんはもう1泊だけ泊まるそうだ。ずっと動きっ放しでしたもんね。休んでください。
こうして、私のエルフの里への初訪問は無事に終わった。




