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歩いてみると、やっぱり躓いた。
下を見れないのがきついなあ。
アニスさんが裾持ちの代わりをしてくれてるけど、それでも絡まる。
絡まるたびに、すかさずクルビスさんが支えてくれるけど、さっき入退場の練習を始めてからもう4回目だ。
うう。本番もこうなったらどうしよう。
「…ワースが裾もちにつくんだろう?」
「ええ。でも、足にからまる分はどうにも。」
シードさんとリリィさんが私たちの歩き方をチェックしながら話す。
メラさんにマルシェさん、アニスさんもはらはらと見守ってくれてる。
どうにも絡まるんだよねえ。
軽やかですごく上等な布なのはわかるんだけど、この絡まる感じ何とかならないかなあ。
明日の式のバージンロードはとにかく長いから、1回はこけると思う。
広場の入口から中央施設のルシェまで歩くんだもんねえ。
本来、中央広場の中心にある時計塔も、このお式のために地下に収納されるそうで、広場の入口からルシェまで一直線だ。
ここで一番注目が集まるから、失態は避けたいんだけどなあ。
「ふむ。少し歩き方を変えるか。」
「変えれるものなんですか?」
メラさんに尋ねると、笑顔で頷かれる。
変更かあ。いまから覚えられるかな。
「つま先を、こう、内側から外側に開くように前に出すんだ。裾をさばくわけだな。どうだ?クルビス。足の出し方まで決められてはいないから、これでいけると思うが。」
「ええ。大丈夫です。決められてるのは歩く歩数と顔を左右に振る回数だけですから。」
新しい歩き方も問題ないみたいだ。
まっすぐ足を出すんじゃなくて、裾を横に避けるように歩くんだ。これなら絡まらなそうだ。
「なら、それで練習してみよう。何せ、本番は明日だからな。時間が惜しい。」
メラさんの言葉を区切りに、また歩きはじめる。
今度は裾が絡まりにくい。
「ハルカ様。首振りが遅くなってます。」
いけない。足元にばかり気を取られて、肝心の首を振るのが遅れてしまった。
これ、明日までに出来るかなあ。やるしかないんだけど。
「押すなよ。」
「しー。」
あれ?何か聞こえる。
…ドアが開いてる?誰か覗いてるの?
「ん?子供たちか?今は昼寝の時間だろう?」
「ええ。そのはずですが…。」
覗いてるのが子供たちだと判断したメラさんがリリィさんに確認に行かせようとする。
すると、ドアが開いて、子供たちがなだれ込んできた。
「わっ。」
「危ない。」
「上のやつ降りろよっ。」
何だっけ。あ、あれだ。トーテムポール。
まるでトーテムポールのように重なって、動く塔になった子供たちがふらふらと危なっかしい足取りで部屋に入って来た。
後ろには手を前に突き出したキィさんと困った顔のフェラリーデさんが笑いながら見ている。
どうやら子供たちが覗き込んでいたのをキィさんが後ろから押したみたい。
危ないなあと思った時には、子供たちはばらけて、ケガをした様子もなかった。
そういえば、こっちの子は運動神経もヒトとは比べものにならないんだっけ。
「何か、部屋の外で覗き込んでたからよ。部屋に入ればいいのにと思って。」
「渡すものがあるんでしょう?」
おふたりにそう言われて、何だかもじもじとした様子で私とクルビスさんの方に来る。
…何かな?おめでとうって言ってくれるとか?
「ハルカ姉ちゃんっ。」
「いつも美味しいおやつありがとうっ。」
「婚姻、おめでとうっ。」
そう言って、各々手紙みたいなものやお花、そして、私を描いた絵なんかを差し出してくれた。
何の飾りも無い真っ直ぐな魔素が感謝と喜びを伝えてくれる。
「…ありがとう。」
うれしいなあ。今までもたくさん「おめでとう。」って言ってもらえたけど、これは泣いちゃうなあ。
かがんで、1つ1つ丁寧に受け取る。
さっき病室に行ったときはどこにもなかったのに。
きっとこっそり準備してくれていたんだろう。
ここにいるのは比較的大きな子ばかりだ。
小さな子はまだ昼寝をしていて、この子たちだけで抜け出してきたみたい。
「…お姉ちゃん、ここからいなくなっちゃうの?」
ヘビの一族の女の子が泣きそうな顔で聞いてくる。
他の子が「ばか。泣くなよ。」とか言ってるけど、あれ?もしかして伝わってない?
「もうしばらくここにいるよ?すぐに雨季になるからね。」
「えっ?うそっ。」
「うそじゃないだろっ。やったっ。」
「お菓子が食べれるっ。」
私がそう言うと、子供たちは零れ落ちそうなくらい目を見開いて歓声を上げた。
その中で思わず漏れたセリフには、私だけでなく、部屋にいたおとなたちは皆笑ってしまった。
どうやら、私がいなくなると思って、寂しがってくれてたのとは別に、お菓子が食べれなくなるんじゃないかって心配もしてたみたい。
調理部隊のひと達が作り方知ってるから、おやつは変わらず出てくるよと言えば、また大喜び。可愛いなあ。子供ってホントに素直。




