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子供たちとのにぎやかな食事が終わると、交代で食事に行っていたリリィさんと合流してドレスの最終チェックをする部屋へ。
普段使わせてもらう会議室は、西の守備隊の隊長さんたちとの会議で使われているらしいので、朝と同じ部屋になった。
ドレスを着せた人形と私とマルシェさん、護衛としてリリィさんにアニスさんがいるともう一杯だ。
医療部隊の休憩室なんだから当たり前なんだけど、ドレスを着て周りから確認するには狭いなあ。
守備隊の家具は壁に収納できるようになっているから、今の部屋には家具はない状態だ。
それでも、6畳ほどの部屋に大人4人とかさばるドレスを着せた人形…。やっぱり狭い。
「ちょっと狭いので、ドレスの裾を踏まないように気をつけて下さい。」
マルシェさんも同じことを思ったのか、注意を促してきた。
ドレスの裾にまず注意がいくところは、さすがお針子さんだ。
「そうですね。裾が長いドレスだから、気をつけないと。」
リリィさんが頷き、アニスさんも「そうですね。」と同意した。
私も裾を踏まないように気をつけないと。
一応、ドレスのデザインが決まってから、式の練習をする時に腰にシーツを巻いて歩く練習はしてたんだけどね。
そうやって皆が裾に注意を向けると、リリィさんが思い出したように話始めた。
「あ。そういえば、裾持ちの子供、ワース君に決まったそうですよ。保護者への確認に時間がかかりましたが、快く承諾してくれました。」
ワース君?って誰?
…あ、ルシン君だ!
ドラゴンの一族は自分の名前をとても大事にするそうで、本名とあだ名の2つの名前を持っている。
ルシン君の場合、本名がルシンであだ名がワース(銀色)だ。
「良かった。引き受けてもらえたんですね。」
「本当に、適役ですね。」
私とアニスさんで喜びの声をあげる。
マルシェさんもニコニコと嬉しそうだ。
ルシン君になって、本当に助かった。
私とクルビスさんは黒の単色だ。
式の時は、クルビスさんは隊長として強さをアピールしなくてはいけないから、普段ほど魔素は抑えない。
私もそれに合わせるため、強い魔素持ちの傍に長時間いられる裾持ちが必要になったわけだ。
でも、そんな強い魔素持ちの個立ちといえば守備隊に所属しているし、当日は警備にあたってもらうことになる。
そのせいで、未成年から選ぶことになって、選定は難航した。
個立ち前、人間でいうところの成人前は魔素が不安定だから、あまりに強い魔素にあてられ続けると自分の魔素のバランスが崩れて、倒れてしまう。
だから、私たちの式の裾持ちも、魔素のコントロールがしっかり出来ていて、黒の単色に負けないくらい強い魔素持ちの子供という、かなり無茶な条件を提示するハメになった。
でも、式をあげると発表してから、式までは2か月程。
探すにも時間が無さ過ぎた。
そんな時にメルバさんが、「ルシンがいるじゃない~。」と言ったのだ。
ルシン君は50歳程だ。人間でいうところの10歳なんて、幼すぎると反対意見も出た。
でも、最近はルシン君に体術の訓練をつけているシードさんが「いけるんじゃねえ?」と賛成したものだから、話は変わった。
メルバさんとシードさん曰く、ルシン君の魔素は同年代に比べて飛びぬけて安定しているのだそうだ。
「俺と訓練してても、全身に流す魔素が一定だ。あの年であれ程安定してるやつも珍しいぜ。」
「街に住む以上、もともと魔素のコントロールには気を使ってたみたいだよ~?僕との訓練でそれがますます安定したって感じかな~。」
そんな話まで聞いたので、じゃあ知ってる子でもあるし、ルシン君に頼んでみようということになった。
ルシン君のご両親は遠い街へ出張に出られてるので、連絡を取るのに時間がかかっていたんだけど、間にあったみたいだ。
本当に良かった。
最悪、見せ場以外は、クルビスさんがドレスの裾ごと私をお姫様抱っこして運ぶってことになってたけど、せっかくのドレスだもん。皆に見てもらいたかったんだよね。




