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「意外です。そんなに兄の落ち込みは酷かったんですか?」
「…俺にはそうは見えなかった。寂しそうといってもほんの少しの間だけだったし、その後はまた元気なアタルに戻っていたから。長が異世界へ帰る魔法を持ってきたときも怒っていたしな。」
怒ってた…。たぶんもう異世界に留まる決心をしてたんだろうな。
育ての子がいるんだし、あー兄ちゃんならそうするだろう。
あれ?じゃあ、なんでそれで帰って来たんだろう?
疑問が顔に出ていたのか、ミネオさんが頷く。
「そうだ。アタルは帰りたがらなかった。長の方が帰すのに熱心だったんだ。
恐らく、あの時点で長はこちらに来ることを知っていたんだと思う。長には少しだが予知の力があったから。
新しい土地がヒト族のアタルに耐えられるかもわからなかった。だから、方法がある今のうちに帰そうとしたようだ。」
メルバさんの話と少し違うけど、ミネオさんから見たふたりはそんな感じだったのか。
それで、メルバさんの意志をくんでミネオさんもあー兄ちゃんを帰そうとしたんだ。
なんていうか…愛されてるよねえ。あー兄ちゃん。
ミネオさんの話に口元がほころぶ。
「兄は愛されていたんですね。」
「みなアタルのことが好きだった。いるだけで明るくなって、怖い物も嫌なこともなくなるようだった。」
私がしみじみ言うと、ミネオさんが微笑みながら頷いてくれた。
こんなにニコニコしてるミネオさんって珍しいんだろうな。クルビスさんも驚いて固まってるし。
「お話ししていただいて、ありがとうございます。」
「いいや。俺も懐かしいことを思い出した。」
お互いにニコニコとしていると、外から何か変な音が聞こえてくる。
あれってネロの鳴き声?ミネオさんもクルビスさんにも聞こえたようだ。
お互いに顔を見合わせて近くの窓から覗いて見ると、何故かネロと小さい子達が横一列になって行進していた。
…なぜかお尻をふりながら。何やってるの。あの子たち。
「…あれは何でしょう?」
「横一列で行進してるな…。」
「…ネロの真似をしてるようだ。」
私とクルビスさんの疑問にミネオさんが淡々と答える。
もういつものミネオさんだ。惜しかったなあ。もうちょっとあの笑顔を見ていたかった。
それにしても、ネロの真似なんかしてどうするんだろう。
なんだか周りにおとなが集まってきてるし。
次でエルフの里のエピソードは終わる予定です。




