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「ハルカ。部屋を出よう。もう大丈夫だ。」
手を離した途端、クルビスさんが優しく声をかけてくれる。
怖がっていたのがバレてたのかな。妙に嬉しそうなのが納得いかないけど。
「はい。」
クルビスさんに返事をして隣の部屋に出る。
こちらがドアを開くのと同時にメルバさんと数人が部屋の中に現れた。
「っ。長。驚かせないで頂きたい。」
「あれ~?メラちゃんにイシュリナちゃん~。ディー君たち知らない~?」
周りも連れて来られたひと達も驚いて目を見開いてるのに、連れてきたメルバさんは不思議そうに周りを見回していた。
メルバさんののんきな質問に、メラさんは手元の資料を差し出してテキパキと答える。
「捕まえました。毒の所持の現行犯です。これは、以前、あの女が残した染料を分析した結果です。街にない染料でしたので、長にお見せしようと持ってきたら鉢合わせました。」
ああ。前に聞いた、クルビスさんに会いに来たのをたたき出したっていうやつかあ。
あちこちに塗りたくった黒い染料が残ったって聞いたけど、分析してたんだ。
メラさんが捕まえろと命じることが出来たのは、染料が毒だって知ってたからみたいだ。
それなら、あの、あっという間の逮捕劇も納得だ。
「ありゃあ~。こっちが遅かったみたいだね~。じゃあ、捕まえた子たちは下~?」
「クルビス?」
「はい。一階に尋問室があります。こちらへ。ご案内します。」
「私は子供たちの所へ行きますので、ここに残ります。」
「では、リリィに任せます。頼む。」
「はい。」
クルビスさんの案内で、子供たちを診ると言った隊士さん以外、メルバさんに連れてこられた隊士さん達は外に出ていく。
その中にはヘビの一族のお披露目で挨拶したザドさんもいた。
軽く会釈して、お見送りする。
たぶん、今回来たひと達は隊長さんクラスのひとばかりだと思う。
どの隊士さんも魔素が大きかった。
残ったのは北の守備隊の治療部隊の隊士さんに、メルバさんに報告に来たメラさんと報告書を呼んでいるメルバさん、そして私とイシュリナさんに、子供たちを診ると言った赤い髪の深緑の森の一族の男性だった。
「ハルカさん。大丈夫だった?お式の前だというのに、大変な目にあってるって聞いたわ。」
「ありがとうございますイシュリナさん。私は大丈夫です。クルビスさんも、北の守備隊の皆さんも良くして下さいますし。」
「そお?それならいいのだけど…。ああ。ご紹介するわね。こちらは西の守備隊の治療部隊の隊士で、ビルムさん。あなたのお兄様と縁の深い方なのよ?」
え。あー兄ちゃんと?
紹介されて、きちんと顔を合わせる。
長い真紅の髪を一つにくくりっていて、シワのある目元は優しく緩んでいる。
深い青の瞳がメルバさんと共に世界を渡った第一世代だと告げる。
長老さん達やミネオさんより少し若く見えるけど、最初の世代ならかなりお年のはずだ。
なのに、現役の隊士さんなんだ。すごいなあ。
「お初にお目にかかります。深緑の森の一族が一葉、ビルムと申します。披露目には顔を出せませんで、ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」
「はじめまして。里見遥加と申します。どうぞ遥加とお呼び下さい。兄がお世話になりました。」
丁寧に頭を下げての挨拶に慌てて挨拶を返す。
いけない。ナイスミドルなビルムさんに見とれちゃってた。
お披露目には出てなかったんだなあ。
まあ、治療部隊の隊士さんなら、お披露目の頃はすごく忙しかったはずだ。仕方ないよね。
「とんでもない。世話になったのはこちらの方です。…兄君には命を救って頂きました。感謝してもしきれません。」
え。ミネオさんだけじゃなかったの?
ビルムさんからは感謝と嬉しさを感じさせる魔素があふれているから、間違いはないと思うけど…。
「伴侶から聞いていた通りの方だ。かわいらしくて、真っ直ぐな方だと。」
ええ?伴侶さんから?
褒められると照れちゃうけど、ビルムさんの伴侶って誰だろう?
きっと同じような見事な真紅を持ってるひとよね?誰かいたっけ?
ここ最近でたくさんのひとに挨拶したから、すぐには思い出せないなあ。




