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「クルビスに会いに来たっつってもよ。捕まったやつは西にいるだろ?」
「ええ。それについてクルビス隊長にお力添え願いたい、のだそうです。」
キィさんの疑問に、呆れた表情を隠しもせずリリィさんが答える。
何で知り合いでもない相手のために、クルビスさんが力添えしないといけないんだか。
とにかく、向こうの事情も聞かなくてはいけないらしいのだけど、こちらの勝手は出来ないそうだ。
西区の守備隊に連絡しないといけないので、待っててもらうことになった。
川の上流は西にある。つまり。捕まったカメレオンの一族も今は西地区にいるというわけ。
ホントに何でこっちに来たんだか。
「いやあ。ここでこっちに来るとか、発想がすげえなあ。」
同じ気持ちだったのか、キィさんが苦笑いでつぶやく。
普通、管轄の違う守備隊に口出しは出来ないから、たとえ本当にクルビスさんと知り合いだとしても、お願いすることに意味はないし、出来ない相談だからだ。
「ホントにね~。あ、西に連絡するなら、僕が迎えに行くって言っといて~?相手が相手だし、西の子も来るなら早い方がいいだろうから~。」
「ありがとうございます。…確かに、ここまで乗り込んできそうな方々ですしね。」
メルバさんが思い出したようにフェラリーデさんに言づける。
ほっとくと乗り込んでくるって…モンスターな方々なんだな。怖いなあ。
「迷惑なんだが…。」
クルビスさんが重いため息を吐く。
ご苦労様です。後で労わってあげますから。もうちょっと頑張って。
「ハルカといれば、引き下がるだろうか。」
「いやあ。どうだろなあ。共鳴してみせても、私も出来ます!とか言いそうだぜ?」
クルビスさんが私を見ながらつぶやくと、キィさんがすかさず突っ込む。
話の通じないタイプみたいだし、一緒にいたら逆効果かなあ?
でも、それより心配なのは、さっきから…。
「クルビスさまあ~。どちらにいらっしゃるのお~?」
「お戻り下さい!ここは医務局です!クルビス隊長はいらっしゃいません!勝手なことは困ります!」
「あらあ?そんなことないわあ。クルビスさまの力強い魔素がこちらから感じるものお。私は気にしないから、大丈夫よお。」
あ。心配的中。
さっきから話題に出すから、フラグ立っちゃったよ。
話題のカメレオンの一族は、止めようとしてるリリィさんに対して、答えになってないこと言っている。
自分に都合のいいことだけを受け取るタイプかあ。面倒そうだなあ。
「あ~。嗅ぎつけたね~。ディー君、キィ君、悪いけど足止めしてもらっていい?西の子急いで連れて来るから~。」
「はい。」
「了解しました。…これ、貸しな。」
メルバさんの指示にフェラリーデさんとキィさんが従う。
キィさんが笑顔で付け足した言葉に、クルビスさんは片手を上げて笑っているのが印象的だった。
メルバさん達が揃って部屋を出ると、急に静かになった。
クルビスさんはここにいないことになってるから、話すのもマズいし、魔素で共鳴してもマズいからだ。
こっちが意識的に静かにしてるからか、向こうの声が大きいからか、ドア向こうの会話が聞こえてきた。
「まああ。深緑の森の一族の長さまあ。お久しぶりですわあ。お会いできて良かっ…。」
「あ~。ごめんね~?僕、ちょっと転移室に行かないといけないから~。」
妙に間延びした声にメルバさんがそそくさと離れていくのがわかる。
相手の女性は次のターゲットをフェラリーデさんに絞ったのか、無遠慮に話しかけた。
「まああ。残念ですわあ。あ。リード隊長さまあ。クルビス様にお会いしたいのですけどお。」
「ここにはいませんよ。仕事中ですから、ご案内は出来ません。それにここは治療をする場所です。具合の悪い子供たちもいるのです。静かに部屋でお待ち下さい。」
「まあ。そうですのお。でも、こちらも急ぎですのよお?どうにか御取次ぎ願えませんことお?」
聞いてるフリして、言いたいことしか言ってないなあ。
これはホントに対応に困るお客だ。
「そりゃあ、無理だな。明日の式であいつもテンヤワンヤだからよ。」
「そう、それもですわあ。私に連絡が何もないから困っていますのよお?お式の日取りは迫ってますのに打ち合わせも出来なくてえ。」
「あ?おめえさんは関係ねえだろ?クルビスの伴侶はカメレオンじゃねえからな。」
「あらあ。キィ隊長さまったら、おかしなことをおっしゃるわあ。私より黒を持つ方なんていないじゃありませんのお。」
…え。何?今の?
ドア向こうにいる女性って、クルビスさんと自分の式だと思ってるってこと?
ええ?
それ、自分に都合のいいの通り越して、ただの危ないひとじゃないっ。
うわあ。これ、どうやって引き取ってもらおう。
クルビスさんを見ると、同じことを思っていたらしく、ひどく顔をしかめていた。




