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検査はいつかのオルファさんの時みたいにあっという間だった。
フェラリーデさんとキィさんは初めて見るらしく、目を丸くしている。
術士のキィさんにも珍しい術式なんだ。
フェラリーデさんも驚いてるってことは、滅多にやらないってことなんだろうか。あ。終わった。
「ん~。大量摂取や長期で摂取すると危険かなあ。鉛なんだよ。これ。」
メルバさんの発言を聞いてギョッとする。
鉛は重金属だ。速攻の致死性は思い浮かばないけど、食べもので微量に得る以外で身体にいれていいものじゃあない。
そんなものを私に飲ませるためだけに、街の飲み水に入れようとしたっていうの?
何考えてるんだろう。
「鉛ですか…。」
私が眉をひそめてつぶやくと、メルバさんが頷く。
「うん。たしかにハルカちゃんに効くよ。これ。でも、子供たちの方が危ないかなあ。少ない量でも消化器系や神経系に影響でるよ。」
お医者さんモードのメルバさんが眉を顰めながら、鉛がどう影響するのか教えてくれる。
神経系の方は聞いたことがある。目や耳が悪くなるんだよね。
消化器系も壊すなんて知らなかったけど、それだと致死性がなくたって身体は壊すだろう。
クルビスさん達も鉛が引き起こす症状を聞いて顔をしかめている。
「追放だな。」
「ええ。ですが、それの出所をたどりませんと。」
「ん~。黒だよなあ?石っぽいけど、そんな鉱物なんてあったか?」
クルビスさん、フェラリーデさん、キィさんの順でため息をつきつつ、次の行動を決めていく。
そういえば、黒一色の鉱物ってないんだっけ。
鏡がわりの黒い板は特殊加工して黒っぽくなってるだけらしいし。
だから、私のウエディング用のアクセサリーも黒はなくて、代わりにいろんな色が入っているものになった。まあ、結局真っ白な真珠になったけど。
「これ、植物性だよ~。岩場にしか生えないやつ~。うちも薬草としていくつかおいてる~。ディー君、ほら、あの灰色の草。」
「え。コグレ草なんですか?でも、あれは…。」
メルバさんに言われて、フェラリーデさんは思い付いたように草の名前をつぶやく。
それにキィさんが反応した。
「黒の染料に使うやつ、だよな?」
「黒の染料…。」
「おおよ。黒の染料は他の草も使うけどな。でも、コグレ草があるかないかで黒の色が段違いだから、ちょっといい染料には必ず入ってるってやつなんだが…。」
「今、この街にその染料は無いはずです。」
クルビスさんの疑問にキィさんが答える。
それにフェラリーデさんが補足した。
無いはずの染料をどうやって調達したんだろう?
…ん?岩場で採れるって、メルバさん言ってたよね?最近そんな話を聞いたような…。
「あの、その草って岩場で採れるんですよね?」
「ええ。ごく少量ですが。それがどうかされましたか?」
どう伝えようか迷っていると、目があったメルバさんが手の中の瓶をひっくり返して、中身を手の平に乗せる。
周りがギョッとするのもお構いなしで、じゃりじゃりとその石粒みたいな鉛をいじりながらメルバさんは口を開いた。
「ハルカちゃんの考えは当ってるよ~。カメレオンの一族の出身地もね~。辺り一面岩場に囲まれた森なんだ~。忘れられてるけどね~。この染料の元を開発したのは彼らだから~。」
メルバさんが私の言いたいことを受けとって、わかりやすく答えてくれる。
予想が当たってた。地質調査に優れた一族。なら、鉛のことも知ってそうだと思ったんだけど。
思わぬ情報が飛び出てきた。
黒の染料を開発したのがカメレオンの一族なら、これも自力で用意したことになる。
計画的犯行かあ。
情状酌量の余地なしだなあ。
でも、そうだとしても、不思議なこと1つがある。
カメレオンは知識が遺伝で受け継がれる一族だと聞いてるけど、鉛の過剰摂取が身体に悪いのはどの生き物にだっていえることだ。
地質調査に優れていたなら、知っているだろうに、なんで、それが私だけに効くはずだって根拠になったんだろう。
捕まったカメレオンの一族のひとってどんなひとなの?




