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「毒って、私に…ですか?」
「わかりません。川の上流で何かしようとしていたところを、不審に思った近所の方が話しかけたんです。そしたら、慌てて逃げ出したらしくて。近くの守備隊の隊士が取り押さえたんです。」
アニスさんの説明によると、捕まったカメレオンの一族は微弱の毒性のある鉱物の粉を流そうとしていたらしい。
致死性は低いけど、街の上流だけあってその川の水は街の隅々にまでいきわたる。
街の中央で子供たちが育てられている場所にもだ。
まだ身体の弱い子供たちにはその毒は危険らしく、そのカメレオンの一族は問答無用で追放処分になりそうだとか。
今、それを裏付ける証拠の毒をさらに詳しく調査しているらしい。
私が寝てる間に大変なことになっていたようだ。
「どうしてそんなことを…。」
「本当に。そんなことしても、いいことなんて無いはずなんですが。」
アニスさんと困惑したまま答えのない疑問に首を傾げる。
こうしてふたりでいるということは、きっと今守備隊の中は大騒ぎなんだろう。
警護の数が減っている以上、下手に部屋を出てうろつくわけにはいかない。
大人しく部屋にいることを決め、外の騒ぎは置いておいて、しばらくアニスさんとヘアパックの話なんかして時間をつぶした。
コンコン
軽くノックする音にアニスさんが答えると、クルビスさんとメルバさんが入って来た。
続いてフェラリーデさんやキィさんもいる。隊長さん達が勢ぞろいだ。
「ハルカ。聞いてるかもしれないが、カメレオンが騒ぎを起こした。毒を流したらしいんだが、それが…ハルカにしか効かないと、そう言っているらしい。」
「私にだけ…ですか?」
「うん、そう~。だからね~?検査しておきたいんだ~。大丈夫、魔素との相性で見るだけだから。」
私の身体に合うかどうか調べるのに、血液検査とかじゃないの?
説明に頷きつつ内心首を傾げていると、メルバさんの手に魔法陣が浮かび上がる。
「あ、それ。オルファさんを調べたやつ。」
「そうそう。対象が近くにあれば、相性を調べたりも出来るんだよ~。」
対象が近くに?あ、メルバさん手に何か持ってる。
瓶みたい。もしかして、あれが例の毒?
中身は黒いものがたっぷり詰まってるけど…。
黒いものってこっちでは魔素が強くて、影響が強いんじゃないっけ?致死性たっぷりに見えるけど。
「じゃあ、いくね~。」
メルバさんの言葉と共に光の環が幾重にも私を包んだ。
まるでMRIみたいだと思いつつ、私はジッとして魔素が乱れないよう呼吸を整えることに集中した。




