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「副隊長。あそこは学者筋ですから。」
「そりゃあ、立派な方もいるわ。でも、アニスはカメレオンの街に勤務したことないでしょう?独占して表に出さない知識なんてないのと同じよ。そのくせ、技術の手順だけ外に出して。根本がわからなくては、何かあった時に対処のしようがないというのに。」
リリィさんの発言をアニスさんがフォローすると、それでは納得いかないのかリリィさんがさらに言い募る。
意外だなあ。エルフとカメレオンって仲がいいって聞いてたのに。まあ、性格とか個々で見たら違うのかもね。
カメレオンの一族は昔から住んでいる場所が樹と岩だらけの所で、そのせいか地質の調査研究などに秀でているらしく、エルフとはまた別に知識を尊ぶ一族として知られている。
その豊富な知識があったからこそ、長らくシーリード族に入らずとも、環境の変化にも自分たちだけで対処出来ていたらしい。
それでも子供にだんだん恵まれなくなって来て、そこで初めて数を増やしていたシーリード族に助けを求めた。
すると。今度はエルフたち深緑の森の一族を積極的に受け入れて外と交わることを認め、自分たちの知識を売りにシーリード族の一員となったって聞いてる。
まあ、その経緯のせいで、最後に入った一族として揶揄されることも多かったようだけど。
でも、イシュリナさんがルシェリードさんに番ってからは、シーリード族内での評価は上がり、「知識探究のために危険な地に留まり続けた一族」という扱いになってるらしい。
そのせいか、イグアナの一族とは仲が悪い。
カメレオンの一族の名声が上がってしまったせいで、イグアナの一族がシーリード族での末席という扱いになってしまったからだ。
カメレオンの一族も知識の伝承を血筋で受け継ぐという遺伝による特殊能力を持っているため、同じく遺伝によって陽球の生産・調整を受け継ぐイグアナの一族とは何かと張り合っているみたいだ。
お披露目の時も、「イグアナと違って我々はあなたを歓迎しているのです。」的な発言をするひとが多かったしなあ。
純粋に歓迎されてるとは言い難い雰囲気だった。
「きっと、今回のことも、最近ぱっとしない一族からクルビス隊長に見合う花嫁を出せば、また、良き時代に返り咲けるとでも思ってのことでしょう。当代の長のように勤勉な方もいますが、ほとんどは受け継いだ知識に胡坐をかいた怠け者です。ハルカさんも相手になさらないで下さいね。さ、このまましばらく置いておきます。端っこが乾いて、肌が痛くなったら手を上げて下さいね?」
リリィさんが私にしっかり釘をさしながら、パックの説明をしてくれる。
うう。イグアナのお嬢さんの時にふらふら寄って行ったから、今度は最初から忠告されちゃった。
でも、嫁を出せば立場が上がるなんて、まるで貴族の世界だよねえ。
実力主義のシーリード族には似合わない考え方だ。
もしかしたら、それが、今回のドレスの窃盗に繋がってたりして。
…ありそうだなあ。衣装を台無しにするなんて、嫌がらせの常套手段だもんねえ。




