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クルビスさん達がドアを見てすぐにノックがされた。
私には何も聞こえなかったけど、3人には誰か来たのかわかってたみたいだ。
コンコン
「リリィです。よろしいでしょうか?」
「ええ。入って下さい。」
リリィさんが硬い表情で部屋に入ってくる。
食事を持ってきてくれた後は下に食事に降りていたはずなのに、何があったんだろう?
「失礼します。先程、イグアナの一族の長の弟だと名乗る方が到着されました。」
思わずクルビスさん達と顔を見合わせる。
イグアナの一族の長の弟って…悪役令嬢のお父さんだ。
フラグ立ってたみたい。
やっかいな相手が来たなあ。
「そうですか。シード、一緒に来てくれますか?クルビスはしばらくしてから降りてきて下さい。」
「しばらく?」
「ええ。ハルカさんと一緒に。あなたとなら手も出せないでしょう。」
ん?私も行くの?
今日は誰にも会わなくていいって言われたんだけど…相手が相手だから仕方ないか。
「…わかった。」
クルビスさんはしぶしぶ頷く。
私を令嬢のお父さんに会わせるのが嫌みたいだ。まあ、わかるけど。
でも、令嬢が「私に侮辱された。」と言ってる以上、私は「言ってない。」とどこかで言わなくてはいけない。
それが今日になっただけだ。聞いてくれるかわからないけど。
ついでに黒髪も見せてやれ。
黒に拘ってるなら、私の黒髪は対抗手段になるはずだ。
「では、お願いしますね?」
「んじゃ、後でな。」
フェラリーデさんとシードさんが部屋を出ると、クルビスさんは私に向き直る。
何だろうと思っていると手を取られて、クルビスさんの魔素で包まれてしまった。
「あの?」
「俺の魔素に馴染ませてから降りよう。そうすれば、俺がハルカに溺れているとわかるだろう。」
ふへ?
…いちゃついてるのを見せようってことですか?
フェラリーデさんが後で降りてくるように言ったのってそれ?
ううん。でも、それが一番わかり易いかなあ。
じゃあ、共鳴の方が良くない?
「共鳴でなくていいんですか?」
「…いいのか?」
クルビスさんが探るような目で聞いてくる。
まあ、私がいつもひと目のある所じゃ恥ずかしがってるからだけど。
でも、今回は事情が違う。
実感は全然ないけど、嫌がらせをされてたんだし。負けるわけにはいかない。
「見せつけてやりましょう。クルビスさんは私の伴侶だって。」
にっこり笑って答えると、嬉しそうに目を細めて頷いてくれた。
こんな嬉しそうな顔されると、いつも恥ずかしがってるのに罪悪感を感じちゃうなあ。
申し訳ないと思いつつ、二人っきりを堪能すると時間はあっという間に過ぎた。
いつもよりたくさんの魔素があふれるような共鳴を収めて下に降りると、いきなり平伏したイグアナの一族の男性と対面することになった。
近くに立っているフェラリーデさんとシードさんも困ったように笑ってこちらを見ている。
こちらでの最上の礼は外なら立ったまま、部屋の中なら片膝をたててしゃがんで、胸に手を当てて上体を少し傾ける。
つまり、目の前の男性はその最上級の礼を取ってくれてるんだけど…。
先に言葉も交わさずに最上の礼を取るのは、謝罪の証だ。
文句を言いに来たんじゃなく謝りに来たってこと?
意外だ。共鳴が効いたのかな?
「顔を上げて下さい。」
「クルビス様、伴侶さま、この度は娘が大変なご迷惑をおかけしました。深くお詫び申し上げます。今後はこのようなことが無いようしかと教育に務めていきたいと思います。」
私を伴侶様って呼んだ。
つまり、娘を売りこもうって気は無くなったってこと?
「…先程の共鳴しかと感じ取りました。あれは娘には難しいことでしょう。娘も理解したかと思います。たとえわかっていなくとも、普段は素直な良い子です。私が言い聞かせれば聞き分けましょう。」
共鳴効果てき面だね。脅しともいうけど。
クルビスさんは当たり前って顔をしてるけど、共鳴で魔素がいつもより大きく周りにあふれてたのはわざとだ。
だから、フェラリーデさんもシードさんも他の隊士さんたちも笑ってる。
困ったひとだと思うけど、今回はいいか。
「謝罪は受けましょう。だが、今度伴侶に危険がせまれば、その時は容赦はしない。…消えてもらう。」
クルビスさんが魔素を殺気立たせる。
うわあ。息が出来ない。
クルビスさん自分があまり前に出れなかったストレス、ここで発散してませんか?




