17
あー兄ちゃんのチートな話が出た以外は1階の探索はほとんどしなかった。
花の咲いてるドアの部屋は一族で作った商品の倉庫になってるらしくてドアを見ただけになったからだ。
そのまま、ミネオさんの案内で階段を上がっていくと、木のうろにあたる部分が窓になっていて、そこから朝のさわやかな光が差し込んでいた。
樹の形をなるべく生かす方向でデザインしたようだ。
不思議なのは、外から見た時は窓というか穴のようなものは見えなかったのに、中から外は見えることだ。
クルビスさんも驚いたようにしげしげと窓を見ている。たぶん、何か仕掛けがあるんだと思うけど。
いい天気だ。まだ陽射しは弱いから暑くない。
窓から外を見ると、ネロと子供たちの塊が見えた。ん?塊?
子供たちが次々と群がっている。
その間から深い緑の髪が見える…ということは。
「…フェラリーデさん?」
「森の祝福を受けた子は一族に懐かれる。いつものことだ。」
私の疑問に横から覗き込んだミネオさんが答えてくれる。
子供たちの塊の正体はフェラリーデさんに懐いて団子になった子供たちだった。
いつもああなんだ。ミネオさんもクルビスさんも気にしてる様子が全然ない。
もしかして、これ?フェラリーデさんが里帰りしない理由って。
構われ過ぎてうっとおしいとか。
子供たちが次から次へと飛びかかってるの見るとありそうな話だと思ってしまう。
「大変ですね。」
「いつものことだ。リードはあれくらいじゃなんともない。治療部隊の隊長だからな。」
たしかに、ふらついてる様子は全くない。まあ、大丈夫そうかな。
いつだったか、訓練に戻ろうとして逃げだした隊士さんを笑顔でベッドに投げ戻してたし。
見ていると、フェラリーデさんは頭の上に登ろうとする小さい子を片手で下してはまた上られていた。
腕の先にも子供がしがみ付いてる。よく腕が動くなあ。
まだヨチヨチ歩きの子も混じってる。ていの良い子守りじゃない?
しばらく窓の外を見てたけど、終わりが無いので探検を続行することにした。
「こっちだ。」
ミネオさんに促されて階段を上っていくと、そこは大きなテーブルとイスがあって、奥には厨房らしきものが見えた。
奥のあれって…やっぱり、対面式のシステムキッチンだ。もはや突っ込むまい。
この階では、壁のあちこちに蔦が絡み、白い小さな花が咲いていた。
知らない花だったのでミネオさんに聞くと、あー兄ちゃんの作り出した匂いを吸収する花だそうだ。
もう何でもありだな。さすがチート。
その壁にはう蔦と花のデザインは用意された私の部屋の壁紙の模様だった。変わったデザインだったので良く覚えている。
「ここがダイニングルームだ。奥はシステムキッチンとバスルーム、そしてトイレになってる。」
生活の水回りが全部ここに集まってるのか。
キッチンの左にあるドアがトイレ、右がバスルームに繋がってるんだろう。
トイレとお風呂も私の良く知る形だった。
使い方をミネオさんが説明してくれたけど、私は良く知っていた。
「…実家と同じ間取りです。」
トイレのデザインもバスルームの大きめの湯船もみんな実家のやつと同じだ。
クルビスさんは驚いていたけど、ミネオさんは頷いていた。聞いたことあったんだろうな。
「アタルの使った魔術は自分の中のものを具現化するものだった。だから、一番よく知ってる家を参考にしたと言っていた。」
「…成る程。長が外に移ったわけだ。ここに客を止める訳にはいかないな。技術に目のくらんだ奴らが群がってくるだろう。」
ミネオさんの説明に私は素直に納得し、クルビスさんは今までの説明を聞いてため息をついていた。
そうだろなあ。技術が第一のルシェモモなら、現代日本の水回りシステムはかなりのお金になると思う。
あー兄ちゃんも困ったものを作ってくれたよ。
これだからチートは。