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とりあえず相手に会うことになって、一階に降りた。
この間、中に通してしまって危うく私が連れ去られる所だったから、今回はひとの目の多い1階の食堂兼事務局で会うことになった。
階段を下りると、入口近くに数人の塊が出来ていた。
いや、塊じゃない。お取りまきだ。
中心にひとり座って、その周りで大きな団扇で仰いだりタオル差し出したり飲み物取りに行ったりしてる。
これがお取りまきでなくてなんなのか。
すごいなあ。取りまき連れてるひと初めて見た。
皆、イグアナの一族だ。
テンプレだなあ。
ある日異世界に来てみたり、ドラゴンの飛ぶ姿を目撃してみたり、目が覚めて「知らない天井だ。」とか言ったり…。
こっちの世界に来てからテンプレって結構体験したと思うんだけど、更に体験することになるとはねえ。
だって、あれ「悪役令嬢」だよね?初めて見たなあ。
「ハルカ様、やはり戻りませんか?」
「いえ。お会いします。」
リリィさんもちょっと引いているみたいで、私に戻るよう勧めてきた。
まあ、普通は関わり合いになりたくないよね。
リリィさんには申し訳ないけど、近くで見てみたいんだよね。「悪役令嬢」を。
きっとこてこてなセリフを言ってくれるに違いない。ワクワク。
「お待たせしました。…どちらの方にご挨拶すればよろしいのでしょうか?」
そんなの真ん中のひとに決まってる。わざとだ。
私が近づいて来たのを見ても立ち上がりもしない、出迎える姿勢じゃない。
今の私は布を被っていない。
黒髪を降ろして、サイドだけピンで留めた状態だ。
遠目で見たって黒髪だとわかるのに、この態度。
喧嘩を売るなら買ってやろうじゃない。
「あら、使いの者も寄越さず、御自分で来られたのね。さすがは辺境のお方。足が軽くていらっしゃるわ。」
話しかけた私に椅子に座っていたイグアナの女性が話しかける。
今のは「ふらふら歩き回る田舎者」ってとこかな?
「こちらに来てから、お客様は自身で出迎えるようにと教えられましたので。それで、皆さんに名乗ればよろしいでしょうか?」
食いついてくれるかな?
彼女の嫌味が聞こえなかったかのように笑顔で再度尋ねると、座っていたイグアナの女性は顔をゆがませて私を睨んできた。おお、怖っ。
「わたくしよっ。こんな場所で名乗れるわけないでしょうっ。いつまでこんな場所にいさせるつもりなの?出迎えに来たなら早く案内して下さる?まったく、そんなおかしなことを教えた誰かさんは案内の仕方も教えてくれなかったの?」
う~ん。すごいなあ。
自分が優位に立ってるって信じて疑わない感じ。
まさに「わがまま一杯の令嬢」って感じだ。
お取りまきはちょっと焦ってるみたいだけど、それでも彼女を止めようとはしていない。
それが当たり前だったんだろうなあ。
だからかなあ?彼女から悪意の魔素ってあんまり感じないんだよね。
当然のことを言ってるから、とか?
うわあ。それはそれですごいなあ。
とりあえず、爆弾は落としておくか。
これ以上舐められたら困る。
「ルシェリード様です。」
あ。イグアナの一族のひと達、顔が固まってる。
やった。爆弾成功。




