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式の資金に上限がないならと、真珠はきちんと対価を払うことになった。
私が買ったという事実があれば、真珠そのものへの興味へも繋がるし、きちんとしておく方が後々に白の真珠の価値を認めてもらいやすいと思ったからだ。
高すぎたら支払をどうするかクルビスさんに相談しようと思ったところでメルバさんがやってきた。
この後グレゴリーさんをクレイさんに会わせるためだけど…。
何故か私のドレスを見たメルバさんは真珠を即金でお買い上げしてしまった。
100万クラスのアクセをポンッと買うひと初めて見た…。
驚いて止めようとしたら、メルバさんにやんわりと諭された。
クルビスさんと私の式はルシェモモが待ち望んでいたものでもあり、歴代のどの隊長格の式より大規模なものになるのは確実だから、どれだけ着飾っても足りないくらいだと。
それくらいこの式は街の内外から注目されていて、その中でも一番注目されるであろう花嫁、つまり私はそれに耐えうる衣装でなくてはならないのだそうだ。
だから、必然的に足りなくなる分はルシェリードさんとメルバさんで持つことにしたのだと言われた。
さらに言えば、予算を超えると貸出になるけど、そうしたとしても街のお金を使うことになるのは変わりなく、雨季の前に大幅な出費は控えたいのだそうだ。
毎年雨季には水害が多く、雨季の跡はその補修にお金がかかるらしいとは聞いているから、水害の多い日本で生まれた者としてそれには素直に納得した。
後でクルビスさんにこっそり教えてもらったけど、実はこんな話がでたのも、今年はどうも雨が多そうだというジジさんの予想が出たからだそうだ。
ジジさんというのはドラゴンの一族の占い師兼相談役のおばあさんだ。
私とクルビスさんの婚約のきっかけを作ったひとでもあり、私が世界にきちんと馴染めるよう宣誓をしてくれた。
占い師と言っても、天文学者な側面もあり、彼女の天候に関する予想はほぼ当るそうだ。
それゆえに、ジジさんの予想は混乱を避けるために公にはしてないけど、雨季の対策に結構な予算がかかりそうだと上層部には認識されている。
なら、自分の身内の式でもあるし、ルシェリードさんたちが個別で支出しても不自然じゃないことから、超過分はおふたりで持つことにしたのが真相だそうだ。
ただ、クルビスさんは「単にハルカに贈り物をしたかっただけだろう。」と言っていたけど。
イシュリナさんも私を連れて買い物に行きたがっているらしいし、今度遊びに行ったら連れまわされそうだ。
ちなみに、式の予算は通常支給される特別予算でまかなえそうなので、気にしなくていいらしい。
メルバさん達が持つといっても衣装代くらいなのだから、気にせず精一杯着飾りなさいと言われた。
言われたんだけど…。さすがに100万単位の買い物となると気になります。
言いくるめられた感じがヒシヒシするし。
「あーちゃんがいたら、きっと同じことをしたと思うよ。」
笑顔で言ってくれたけど、さすがに庶民な兄はこんな高価なものは妹に与えないと思う。…しないよね?
ルシェリードさんが当座の資金として1000万円近く入れてくれたことといい、ここの偉いひと達って金銭感覚が桁違いな気がする。
嫁いで大丈夫なんだろうか?
でも、ルシェリードさんのお家って普通の民家くらいだったし、案外普段は質素とか?
(どっちにしても、クルビスさんに聞いておかないと…。金銭感覚のズレは洒落にならないしなあ。)
私が新たに認識した事実に内心戦慄してると、メルバさんがポツリとつぶやいた。
「せっかくこんな大舞台で白を身につけてくれるんだもん。これくらいしなきゃね。」
その声に我に返る。
ああ。そうだ。私が白のベールがいいとマルシェさんにお願いした時も、メルバさんが口添えしてくれたんだった。
「エルフだって、本当なら白で結婚式やってたんだから~。」って言ってくれたんだっけ。
マルシェさんも驚いてたけど、エルフはこちらに来る前の異世界では、結婚式に限らず儀式のときは白を着ていたのだそうだ。
こっちの世界に来た時に認識の違いを知って、当時の技術じゃ白い布を作るのは難しかったりもして、その伝統は廃れてしまったそうだけど、せっかく私が望んでるのだから復活させようということになったそうだ。
きっと、メルバさんも白の扱いに心を痛めていたひとなんだろう。
だから、私が身につけたいと言った時にとても喜んでくれたんだと思う。
私の辺境出身の設定なら、誰もが着ない色を来たって反発も少ないだろうしね。
メルバさんの心境を感じ取って、ありがたく真珠のネックレスはお祝いに受け取ることにした。
「あ、ブレスレットもあるよね~?ピアスも~。一通りそろえてくれる~?」
…セリフと共に真珠のブレスレットとピアスも即金で買い上げた時は顔が引きつりそうになったけどね。
ちなみに、メルバさんも「ちゃんと定価で払うから~。あ。ハルカちゃんの名前で買ったことにしておいてね~?もっと評価されていいのにね~。」とグレゴリーさんに言って、感動で泣かせていた。
自分の惚れこんだものが評価されたら嬉しいよね。
クレイさんの事で大変なことになったけど、これで少しは気が晴れてくれたらいいな。
そういうことで、真珠一式を身につけて鏡の前に立つと、不思議なほど統一感があった。
色もそうなんだけど、形もマーメイドドレスにマリアベールだからか、白の真珠がクラシカルで驚く程よくなじむ。
「お綺麗ですっ。ハルカ様っ。」
「ええ。とてもお似合いです。海の輝石とは身につけた方を輝かせるものなのですね…。」
「うんうん~。綺麗だよ~。ハルカちゃん~。モノトーンでまとまって良い感じじゃない~。」
「本当にお美しい。これほど海の輝石の似合われる方にお会いしたのは初めてです。」
リリィさん、マルシェさん、メルバさん、グレゴリーさんの順で口ぐちに褒めてくれる。
衣装じゃなくて、私が綺麗だって。ふふふ。
「ありがとうございます。」
花嫁衣装だもんね。綺麗って言われるとすごく嬉しい。
普段なら照れちゃうとこだけど、これは特別だ。
「何だかクルビスさんにも見せたくなってきました。」
「あ~。見とれそうだね~。当日まで見れないようにしてるんだっけ~?」
「ええ。シードが「絶対仕事にならないからダメだ。」って。リード隊長もそう言うんですよ?」
「リリィ。シード副隊長はあなたの花嫁姿がちらついて仕事にならなかったそうだから、きっとそれでよ。」
「伴侶の衣装姿というものは特別ですからな。」
浮かれた私のセリフにメルバさん達が知らなかった事実を次々と話してくれる。
私としても、今朝、「仕事に行きたくない。」って言われたばかりだから、どれも頷ける話だった。
まあ、当日のお楽しみってやつだよね。
それなら、化粧も髪型も花飾りも完璧にして、クルビスさんを見惚れさせるってのもいいじゃない。




