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1700字。
ようやっと通常に近い字数です。
「クレイさん、ですか。」
「ああ。グレゴリー殿にも確認を取ってある。当時、証言を取るために守備隊から何度か呼び出されたそうだ。」
それなら間違いないだろう。
クレイさんかあ。微妙だなあ。
「この間グレゴリー殿に忠告してもらってから、クレイ自身の素行を調べ直してみたんだ。そしたら、その調書が引っかかった。事件の起こる数日前に、突然「宝飾を扱う仕事がしたい。」と言って、鉱物の産地に行ってしまったらしい。そこで転移陣の事故に巻き込まれたそうだ。」
事件の数日前に突然…。
宝飾を扱う仕事って言っても、細工をする仕事、商品を売る仕事なんかが先に浮かぶものだと思うけど。
「産地にいきなり、ですか?」
「ああ。グレゴリー殿も無茶だと止めたらしいが、クレイには何か伝手でもあったようで自信たっぷりに「一族の要となる仕事にしてみせる。」と言ったらしい。事実その通りになったので、弟の先見の明に先代の長共々感心していたそうだ。」
伝手…こうなってくると、それは赤の一族だったんじゃないかと思ってしまう。
ただでさえ、クレイさんには子供たち誘拐の疑いがかかっているから、余計にだ。
「…証拠は無い。だが、転移陣の細工が証明できれば、そちらも崩せる可能性はある。その前に捕まえることになるかもしれないが。」
難しい顔をしてクルビスさんが言う。
そうだよね。フェラリーデさんの捜査が先に進めば、そっちから先に捕まえることになるだろうし。
でも、どちらにしても、グレゴリ―さんには頭の痛いことだろう。
一族から、それも近親者から犯罪者が出てしまうのだから。
オルファさんが元気になったのが救いかな。
この間はすっかり元気そうだったけど、あれからどうなんだろう?
メルバさんの診察を定期的に受けることになったみたいだし、帰ったら聞いてみてもいいだろう。
そんなことを考えていると、クルビスさんがさっきまでより明るい声を出す。
「まあ、スタグノ族に関してはこれくらいだ。ハルカはどの一族とも関わりが深いから憶えておいてくれ。…特にクレイには気をつけて欲しい。」
「はい。会うことも無いと思いますけど、ひとりにならないよう気をつけます。」
「そうだな。それくらいが良い。後は、カメレオンとイグアナについてだったな。一族といっても一部のことなんだが、こっちはこっちで面倒でな…。」
クルビスさんが目を細めてため息を吐く。
え。何だろう?面倒って私も関係あるってこと?
挨拶に行ったときも変わったことはなかったけど。
しいて言うなら、カメレオンの長がすごい細身で、シーリード族には珍しい草食系だなあって思ったくらい。
「その、俺に「是非、一族の娘を。」と強引に勧めてきたのがこの2つでな。ハルカとの婚約を発表してから大人しくなったと思ってたんだが。どうやら、陰で嫌がらせをしてるらしいんだ。」
は?
嫌がらせって、何を?
「あの。嫌がらせって?今のところ、困ったことにはなってないんですけど。」
「それはハルカのおかげだな。黒い布を手配できなかったのは、その連中が手を回してたかららしいが、それはハルカを気に入ったリッカが気を利かしてくれて助かったし、レシピ公開の件でほとんどの一族はこちらの味方についてくれたから、実行しようとしても邪魔されてことごとく失敗しているらしい。」
ということは、つまり、自分とこの娘との縁談を押してたひと達が嫌がらせをしようとしたけど、失敗してますよってこと?
なんだか間抜けな話だなあ。
「そうですか…。それって一部のひとだけなんですよね?」
「ああ。挨拶に伺った当代の長たちはこちらの味方だ。この話もその当代たちから「気をつけて欲しい。」とわざわざ知らせて来たんだ。長たちがいくら諌めても、「娘が黒を持っているから。」と諦めないらしくてな。もしもの事があってからでは遅いからと知らせてくれた。黒の量など比べものにならないのに、ハルカを逆恨みしてるらしい。」
そう言ってため息をつくクルビスさん。
よっぽど面倒なんだろうなあ。
メラさんが言ってた偽物ってそのひと達のことかな?
足りない分を黒く塗ったりしてきたって聞いたけど…そこまでする執念はちょっと怖いと思う。
「それって、肌を黒く塗ったりしたひと達ですか?」
「知ってたのか。そうだ。母がたたき出してくれたが、彼女らが触った跡は何処も真っ黒になっていた。何を塗ったのか知らないが、あれは気持ち悪かったな。」
やっぱりそうだった。
触った跡も黒いって、それ、もうファンデってレベルじゃないよね?
髪の毛ならまだわかるけど、肌だよ?全身塗ったの?
白塗りならぬ黒塗り?
てことは、婚活にボディペインティングかあ。うわあ。
…ないわー。クルビスさんが顔をしかめるわけだ。




