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しばらくして始まったドラゴンの宴はとにかく陽気なものだった。
何だろう。夏のビアガーデンのノリが近いかな?
『何とめでたいことよ!』
『このような慶事、久方ぶりだの!酒が進むわ!』
そう言いながらドラゴン達がお互いの酒樽をぶつけ合って笑っている。
そんな光景があちこちで繰り広げられていた。
「ドラゴンの一族の方ってお酒がお好きなんですね。」
「ああ。ドラゴンの一族はヘビの一族と並んで酒好きで有名だからな。…ここまでとは思わなかったが。」
クルビスさんの説明にヘビの一族の宴会を思い出す。
あの時も大量の酒樽が山のように並んでいたっけ。消費スピードは段違いだけど。
ジョッキどころか樽ごと飲むんだもんなあ。
樽のフタをまるで牛乳瓶の牛乳キャップのように槍を使ってキュッポンと外してるし。
果物を漬け込んだお酒が入っているらしい家一軒分の大きさの壺からは、たらいで果物ごとすくって飲んでるし。
突っ込みどころが多すぎる。ドラゴンってこんなだっけ?
『ふはははっ。どうしたクルビス。酒が進んでおらんぞっ。』
「おじい様こそ。飲み過ぎではありませんか?おばあ様がいないと思って。」
『そう硬いことを言うな。イシュリナには内緒だ。』
周囲のどんちゃん騒ぎに目を丸くしていると、ルシェリードさんが絡んできた。
どうやらいつもはイシュリナさんにお酒を止められてるようで、今日はハメを外しているらしい。
「えっと、お酒、甘くて美味しいです。このお酒って、果物で作られてるんですか?」
お祝いの席なので話題を変えようとお酒のことを聞いてみる。
私に渡されたお酒は味は杏のお酒に近いもので、暑いのにお湯で割られていた。
これは女性用で、身体を温める作用があるらしい。
甘くておいしいんだけど、おかげでうっすら汗をかき始めている。汗臭くなりませんように。
お酒は種類もたくさんあるらしく、私たちの前には種類の違うお酒の入った小さな壺がたくさん置かれていて、同じく置かれているジュースやお湯で割って好きに飲めるようになっていた。
どの壺からも果物の発酵した甘い香りがしていて、ドラゴンの里では果実酒がメインなんだろうと思う。
聞いてみると案の定、出されているお酒はどれも里で採れた果物で作っているとのことだった。
『ハルカが飲んでいるのはミルカという酒でな。甘いから女性に人気がある。街にも卸しているが中々人気のようだ。それ以外にもルッタなんかも里の特産として外に出している。他にもあるが、まあ、ほとんど里で飲んでしまうな。』
ルシェリードさんはそう言って陽気に笑っていた。
こんなにたくさんのお酒が並んでいるのに、街に卸してるのって2種類だけ?
疑問に思ったけど、周囲で飲みまくっているドラゴン達を見て納得する。
これだけ飲むなら、外になんてほとんど出なそうだ。なんか納得。
途中、クルビスさんが補足してくれたけど、ルッタとはワインのことだった。
ブブルの実というマスカットのような果物を発酵させたお酒だ。
深緑の森の一族に人気があるらしく、定期的に輸出しているらしい。
それより気になったのが、私が飲んでたミルカというお酒。
元になったゲテという果物は見た目桃なんだけど色がくすんだキウイ色で、果物の方も食べたけど味は杏だった。
杏のお酒だと思ったのは間違いではなかったみたいだ。
こうなると気になるのが梅。
梅酒ってないのかなあ。
似た味の果物、ルグの実だっけ?は教えてもらったけど、実が小さ過ぎるんだよね。他にもないんだろうか。
あったら、梅酒に梅干し梅ジャムといろいろ作りたいんだけどなあ。
あ。梅餡もいいなあ。
梅ソースでかき氷とか…じゅるり。あらいけない、ヨダレが。




