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『ふっ。さあ。これで堅苦しいのは終わりだ。宴の用意をっ。』
共鳴を起こした私たちを目を細めて見ていたルシェリードさんは周りを見渡して宴の用意を命じる。
それまでの緊迫した空気がウソのように軽くなり、周囲のドラゴンが慌ただしく動き始めた。
「ハルカ。移動しよう。」
クルビスさんに誘われてルシェリードさんについて行く。
歩きながら周りを見渡してみるけど、ドラゴンの里は山の頂上とは思えない程に緑豊かな土地だった。
周囲の谷の壁面には大きな穴が幾つもあって、恐らくあれが住居なんだろう。
それらに囲まれるように巨大な広場があるのだけど、広場はすり鉢状の形をしていて、段々畑のように一定の幅で段を作りながら底の方に向かっている形だった。
段の幅はかなり広いので、ドラゴンの座れるサイズなんだろうと見当をつける。
それぞれの段に果物や花が山盛りに準備されているから、この予想は当たっているだろう。
私とクルビスさんはすり鉢状の一番底にいて、その端に設けられた花の飾られた特等席に座ることになった。
地面に直接座るのかと思ったけど、クッションがたくさん敷かれていて居心地の良さそうな席だった。
クルビスさんに当然のように膝抱っこされてクッションの感触は味わえなかったけど。
降りようと試みたけど「ここはドラゴンの里だぞ?」と却下されました。
いちゃつきぶりを周囲に示さないといけないらしい。
今までなら納得出来なかったけど、ルシェリードさん家でそれがホントだってわかったから反論のしようがない。
そんな私たちを微笑ましそうに眺めているルシェリードさんは、私たちの横にしゃがみ込んで本体のままで寛いでいた。
ドラゴンの里では本体のままで生活するからだそうだけど、飛び回るドラゴンたちを見ると「本体のままでいいですっ。ご馳走様ですっ。」としか思えなかった。
谷の中は気温が高くて湿気が多く、植物もたくさん生えている。
そのどれもに花や実がついていて、まるでおとぎ話の桃源郷のような印象をうける。
今までで一番異世界を感じる場所かもしれない。
まさしく王道というか、夢のような場所だ。
『我が一族の里は珍しいかな?』
私が興味深々で周囲を眺めているのに気づいたルシェリードさんが声をかけてくれる。
やばい。キョロキョロし過ぎた。
「あ。すみません。こんなにたくさんのドラゴンの方を見るのは初めてで。」
『謝らずともよい。ここは結界の中というのもあって、外とは違うからな。植物も動物も街では見ることのないものばかりだ。』
結界って、あの何かを通り過ぎたように感じたやつかな?
あれを越えてから空気が変わったもんね。
「結界でそんなことも出来るんですね。音を遮ったりするものだと思ってました。」
何度か見たことがある。
外におしゃべりの内容が聞こえないようにするために、メルバさんや長老さんが使っていた。
『それも結界の効果だ。結界とはようは外との繋がりを絶つということだからな。中と外で音も気温も湿度も変わる。』
はああ。まさしくファンタジーって感じだ。
便利そうだなあ。結界って。覚えられないかな?
「私でも結界は使えたりしますか?」
『ハルカなら使えるだろう。クルビスはかなりの使い手だ。教わるといい。』
「え。クルビスさん使えるんですか?」
「ああ。単色の奴らはたいてい使えるぞ?必要になるからな。」
必要に?それってどんな時に…いえ、いいです。何でもないです。
何だか不穏な笑みをしているし、今、クルビスさんは魔素を抑えていない。
このまま聞いてたらまた腰にくる可能性がある。
宴も始まってないのに、そんなんなってたまるもんか。