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とりあえず、立ち話もなんなので、比較的片付いてる机の所に移動して、フェラリーデさんに詳しい話を聞くことにした。
座ったらネロが私の膝上に登ってきた。お、重い…。そろそろ抱っこも無理かな。
「…で?リード。「誘拐されかけた」んなら捕まえたんだろう?なぜネロを連れてきたんだ?」
私の横に座ったクルビスさんがフェラリーデさんに質問する。
犯人捕まったんだ。ネロが無事で良かった。
ネロはセパと呼ばれるルシェモモでは一般的な家畜動物だ。運搬から食用まで広く活用されている。
北の地区では少ないけど、他の地区では一家に一匹いるというくらいポピュラーな生き物だ。
ネロは森で拾った野生種だけど、弱体化防止のために野生種はたまに捕獲に行くそうだから、そのこと自体に希少価値はないだろう。
そんなネロが誘拐されかけた?納得いかないなあ。
「騒動があってからネロの興奮が収まらなくて。ハルカさんとクルビスに会えば収まるだろうと連れてきました…というか、これを機にたまには里帰りをしろと放り出されまして。ネロはすっかりおとなしくなりましたね。
誘拐に関しては、どうもネロを黒の単色と聞きつけてねらったようです。」
苦笑と共にフェラリーデさんが答えてくれる。
放り出されたんだ。フェラリーデさんも帰ってなかったんだなあ。
ま、ネロに関しては連れてきてもらえて助かりました。私の膝に乗ったとたんに大人しくなったし、興奮し過ぎて暴れるよりはいいよね。
それにしても、誘拐は黒一色なのが原因かあ。セパまで黒だから狙われるっていうのはわかんないなあ。意味無いのに。
実家でセパをたくさん飼ってるということで、ネロに関してはシードさんにいろいろ教えてもらったんだよね。
それによると、黒だとか単色つまり一色だけっていうのが重視されるのは、それが能力の高さに関係するからだけど、実際に影響があるのは魔素の多い話せる種族だけのことであって、セパなんかの動物はあまり当てはまらないらしい。
動物とされてる生き物は、生まれ持った魔素が小さすぎて、そこまで影響しないんだとか。
強いて言うなら、単色だと身体が丈夫なくらいらしくて、黒だといいねってみんなが言うのは、吉祥を表す色なのと、私とクルビスさんの色だからだそうだ。
なので、ラッキーカラーと丈夫なだけで守備隊から誘拐しようっていうのは、リスクの方が高過ぎて現実的じゃない。
黒一色なんて目立つことこの上ないし、セパの色は環境に左右されるから誰のもとで育ったか一目瞭然だから、目撃情報はすぐに集まるだろう。
クルビスさんが有名過ぎることもあって、誘拐しても運搬用には使えないし、肉をさばくのは素人には難しいから専門の業者を通すにしても、ネロは小さすぎて食用にも使いづらい。
犯人は何をしたかったんだろう?
「…成る程。どこの一族だ?」
「スタグノ族のようですが、まだ意識が戻らないので詳しいことはわかりません。ネロの蹴り一発でやられてましたから戦士ではないようですが、それくらいですね。
…それにしても、ネロはすごいですよ。シードの教育の成果か、身体の中心に正確に蹴りこんでいました。」
フェラリーデさんがにこにこしてネロを見つめる。
ネロってば、いつの間にそんな技を…。というか、シードさんもいつの間に教育してたんだろう。
「そうか。筋がいいな。ネロ。…ハルカ。期待できると思って許可したんだ。褒めてやってくれ。」
許可したんですか…クルビスさん。頭までなでちゃって。
どうりで最近、暴れん坊に拍車がかかってると思った。この間なんて、エサ桶を蹴り壊してたし。
「ぶきいいっ。」
こら。ネロもふんぞり返らないの。『ネロえらいっ。』じゃありませんっ。
相手を意識不明にしちゃって。暴れん坊は、ママ許しませんよっ。
「無事で良かったですけど、意識不明なんてやり過ぎじゃありませんか?」
「ぴぎ?」
「…まあ、少しな。だが、ヒナにしては良くやったんだ。ハルカ、褒めてやってくれ。荷物を守るのもセパの仕事の一つだ。戦えないセパは運搬用には使えない。」
ネロのやったことにどうにも納得出来ないでいたら、不思議そうなネロを見てクルビスさんが忠告してくれた。
仕事…。そっか。ネロはペットじゃないもんね。ルシェモモでは貴重な技術や商品を狙う泥棒が後を絶たないから、荷物を守るのも仕事のうちなんだ。
ネロは野生種だから、強くなるだろうって運搬用にしてもらえたんだもんね。
セパはたくさんいるんだし、仕事が出来ないなら食用にされることも十分にあり得る。
「…そっか。お仕事したのね。ネロ。えらいっ。」
「ぴきっ。」
今度こそ納得してネロを褒めると、ネロは嬉しそうに目を細めて頭を擦り付けてきた。
うん。誘拐犯をやっつけたんだもんね。小さいのによく頑張った。良い子良い子。




